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extraordinary 4
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「ちゃんと11時前には帰る……飲んでねぇよ、わかってるって………」
俺が店から出ていくと、店の壁にもたれて電話で話しているあの男がいた。
「やっばぁ…慧君可愛すぎ……はいはい、わかった。帰る前にまた連絡入れてやるから……大人しく待ってろよ、子猫ちゃん」
盗み聞きをしたつもりはないのだが、嫌でも聞こえてきた会話中の1つの単語に俺は反応してしまう。
子猫ちゃん……その言葉を本人に言うのかと。
星が仔猫に思える事はよくあるし、康介と話す時は名前を伏せる為に星の事を仔猫と呼ぶが……星本人の前で口に出した事はない。
電話越しの子猫ちゃんとやらが納得したのか、電話を切った男。少し頬が緩んでいるように見えるのは気のせい……だと思っておこう。それにしてもキザな野郎だ。
そんな男の前を俺が通り過ぎようとした時。
「……煙草?」
「え?あ、はい」
落ち着いた声で言われた言葉に足が止まる。
「買いに行くなら俺のやるよ」
そう言われ差し出されたのは、まだ封が切られていない新品の煙草だった。一瞬、兄貴が吸っている物と同じかと思ったそれは、あまり見かける事のないパッケージの煙草で。
吸った事のない煙草の味が気になった俺は、差し出された煙草を受け取り会釈する。
「いいんですか?でもどうして僕の煙草がない事…」
「どうぞ。さっき席外す前に空になってたところ見たからもしかしてと思っただけ」
受け取った後に借りを作ってしまったと思ったが、やっぱり返すと言う気にもなれず、俺は黙って渡された煙草の箱を握るしかなかった。
「戻るの面倒くせぇな」
この男も早く家に帰りたいのだろう。
本当に面倒くさそうな顔をして、息を吐くように呟いた男。
「そう……ですね。なんかすみません」
何に謝っているのか自分でもよく分からないが、そう言った俺を見て、長い睫毛に隠された黒い瞳が笑っていた。
「ナニ?」
馬鹿にされたような感覚に、素の俺が顔を出す。
「いや。飛鳥に似てんなぁと思って」
俺を見たまま変わる事のない瞳。
この男の前でいい子ちゃんをしていても見抜かれる……そんな気がした俺は、無理に笑うのをやめて思った事を口にした。
「あのクソ兄貴と一緒にすんじゃねぇーよ、俺は俺」
俺の言葉にニヤリと上がった男の口角。
最初に目が合った時とは違う、自信に満ち溢れた笑い方。この笑い方をする男は大抵ドSだ。
「お前うちの弟に似てる。気に入った」
似てる……か。
誰とどう似ていようが俺は俺だ。
飛鳥でもなけりゃ、この男の弟でもないのに。
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