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喪われた記憶 1 (雪夜side)
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事故にあって記憶喪失とかアホじゃねぇーかと思った。でも、どうやらそのアホが俺らしい。
高次脳機能障害。
事故にあったヤツにたまにみられる症状らしく、喪った記憶が戻る事はあったりなかったりするそうだが。それすらどーでもいいと感じてしまう俺は、やっと回復してきた右脚の傷をぼんやりと眺めて溜め息を吐いた。
事故にあった日の事は覚えていない。
というより、色々覚えてない。分かるのは自分の名前だったり家族の事だったりするが、どうやらそれだけでは足りない事が多過ぎるんだと思う。
クソな親共に代わって、毎日俺の世話を焼きに来る飛鳥の事は分かる。そんな飛鳥に仕事を押し付けられ、顔すら出さねぇー遊馬の事も分かる。もちろん、うぜぇークソ女の華の事だって分かるのに。
兄貴はハッキリと俺に今の症状を伝えてきた。
1番忘れちゃいけねぇ事をお前は忘れてるって。
脳に刺激を与え思い出すようにする為か、俺はこの病室で色んなヤツに会わされた。俺がしていたらしいバイト先の上司とやらには謝罪され、変なオカマが見舞いに来てはやたらと美味いメシを残して去っていったりした。
バイト仲間だったらしい野郎と、どっかの制服を着た野郎には初対面なのに軽々しく名前を呼ばれ、内心すげぇームカついた。向こうは俺の事を知ってるらしいけど、俺は知らねぇーし、分かんねぇーんだっつーの。
ただ、俺の高校の同級生だったらしいヤツらは、俺のそんな事情はお構い無しだった。金髪で、すげぇーキレイな顔した男は俺に無言のまま平手打ちしてきやがって。ソイツに殴り掛かろうとした俺は、ソイツの隣りにいた眼鏡野郎に押さえつけられた。
それからは1度も、あの金髪野郎と眼鏡は見ていない。俺には顔も名前も分からないヤツらが多過ぎてイヤになる……ただ元々、顔も名前も覚える気がなく興味もない俺は、最初から関わりがあるらしいヤツらの事も人としてしか認識してなかったんじゃねぇーかと思う。
俺が使っていたらしいスマホさえあれば、何か思い出す手掛かりが残されているのかもしれないけど。画面が割れてデータも吹っ飛んでるからと、兄貴から渡された新しいスマホはまっさらな状態のまま触れていない。
とにかく、目覚めた後から全てが『らしい』なんだ。
何を見ても言われても分からない。
どうやら俺が積み重ねてきた時の歩みは喪われているらしいけど、それでもやっぱり分からないものを考えてみても答えなんて出なかった。
そうこうしているうちに、俺に会いに来るヤツらは減っていき、今じゃ兄貴と黒猫だけが毎日俺に会いに来ては独りの時間を奪っていく。
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