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喪われた記憶 3
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「はぁ……煙草吸いてぇー」
抑えきれない苛立ちを濁すのは煙草だけだ。
煙草の吸い方は覚えいるのに、当たり前だが病室で吸う事は禁止されている。しかも俺の大事な煙草もジッポも、今は兄貴に没収されて俺は禁煙生活中。
「ったく、あのクソ兄貴。いつなったら返してくれんだよ……せっかく動けるようになってきたってのに、煙草の1つ吸えねぇーなんて地獄と一緒だ」
「退院したら返すって言ってましたよ?」
吐き捨てた言葉に返ってくる黒猫の返事は軽い。あの兄貴と関係があるのかと疑いたくなってしまう程、どうやらコイツは飛鳥に心を許しているように思える。
何故、俺には何も言わないのだろう。
飛鳥と俺じゃ、どう違うのか分からない。
今だってそうだ。
コイツの腕に掛けられているのは、間違いなく兄貴のジャケットで。俺の傍にいるクセに、今は飛鳥を見ているようなその瞳が気に入らなかった。
「お前は?いつになったら俺の前からいなくなる?」
それでもずっと傍にいて欲しいような、そうでないような感覚を上手く言葉に出来ず、そう聞いた俺に黒猫は下手くそな作り笑いで応えてくる。
「退院する日まで、傍にいさせてください。その後はもう……会いに来たりしませんから」
きゅっと握られた兄貴の服、俯き加減で伏せられた睫毛が濡れていくのは時間の問題だと思う。それでも頬を伝う事のないコイツの涙は、俺の胸を痛めつけていく。
ほらな、やっぱりいてぇーんだよ。
見えない傷口をぐりぐりと抉られ、そこに塩でもふられた気分だ。
「もう、お前はなんでいんだよ……」
くしゃりと掴んだ自らの髪。
額に当たる手は俺が思っていた以上に冷たく、こんな手で触れたらコイツが可哀想だと思った。
「あの……ごめんなさい」
謝って済む問題じゃない。
それだけで済めば警察なんて輩はいらない。
お前は一体誰なんだ。
何の為に此処にいる。
誰の為に泣いて、何の為に笑うんだよ。
俺の全てを奪っていきそうな程に感じるこの痛みは、お前にしか感じねぇーのに。
「……お前はもう飛鳥に抱かれた?」
塩の後はアルコールだ。
どうせ同じ痛みなら、落ちるとこまで堕ちればいい。
軽く返事してみせろよ。
汚い笑顔で笑ってやるから。
だから早く、俺の前から消えてくれ。
そうでもしねぇーと、誰だか分かんねぇーお前の事を今すぐにでも抱き締めてしまいそうで、恐怖を感じる俺がいんだよ。
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