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喪われた記憶 2-1(星side)
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「せいっ!?」
「あ…兄、ちゃ……」
どうやって家まで帰ってきたんだろう。
息苦しくて、声が詰まる。
「ユキに何された?アイツに何されたのッ!?」
自分の部屋へと入ったオレが、いつもよりずっと帰りが早かった事を心配してくれる兄ちゃんの声がする。でも、頭がガンガンと音を鳴らして、兄ちゃんの質問が上手く聞き取れない。
ボロボロって、今みたいな気持ちの事をいうのかなって思うくらいに、病院から帰ってきたオレは身も心もクタクタだった。
「オレっ、言っちゃった……雪夜さんが好きだって、雪夜さんの前で言っちゃったよぉっ……うぅ、っ…」
何をされたわけでもない。
飛鳥さんとの関係を聞かれて、言わずにおこうと決めていた言葉を思わず口走ってしまっただけ。
泣き続けるオレを包み込むように抱き締めてくれた兄ちゃんは、優しくオレの背中を擦ってくれる。
この数ヶ月の間、オレは雪夜さんから何度も来るなと言われたし、本当は聞きたくない言葉だって散々言われてきた。
それでも毎日会えるなら、雪夜さんの傍にいられるなら、溢れる涙だって堪える事が出来たのに。はっきり消えろと言われたのは今日が初めてで、1度零れ落ちた涙を止める事は出来なかった。
「せい、もうユキの所に行くのはやめよう?これ以上せいが傷つく姿は見てられないし、必要もない。俺が荒治療がてら、ユキの事もう1発殴ってこようか?」
「ううん……もう、いい。もう、会わっ……」
弱った感情に任せて言いかけた言葉が、胸に痞えて息だけが漏れる。
会えないならいい。
でも、会わないなんて言いたくなかった。
あと少しだったのに……雪夜さんが退院する日までは、何も言わずに傍にいるって決めていたのに。
部屋のフローリングに崩れるように座り込んだオレは、そのまま声を上げて泣くことしか出来なくて。そっと聞こえてきた兄ちゃんの言葉すら、受け止める事が出来なかった。
「戻るのが1番だけど……記憶がなくてもユキならもう1度、せいを好きになれると思ってた。俺は何処でそう信じてた……でもね、せい。ユキを忘れろとは言わないけど、忘れた方が楽になれるよ?」
「いやっ…だ、絶対忘れない、忘れたくないっ!!思い出だけでもいいから……もうこれ以上、オレから雪夜さんを奪わないでっ!!」
「ごめん、ごめんね……せいが好きなのはユキだけだもんね……ユキを奪ったりしないから、今はいくらでも泣いたらいいよ。沢山泣いて落ち着くまで、俺が傍にいてあげる。だから、せい……せいの辛さを俺にも分けて?」
雪夜さんの記憶から消えているのはオレだけじゃない。兄ちゃんだって何も言わないだけで、本当はすごく辛いはずなのに。
それでもオレを支えようとしてくれる兄ちゃんの優しさは、今のオレには1番の薬だった。
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