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*96*【レイに会うよ③】
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「いや、悪い悪い!俺こそ、もっと沈んでなきゃなんないのにな…」
今度は、やや大袈裟に声を落とすと、レイが鼻をかいた。
「いや…」
「つーか、ひーがそんなに沈まないでくれよ!俺、罪悪感で死にそうだよ…ま、死ねって感じか…」
「そんな事…」
思っていないとは、コジマさんの事を思うと続けられない。
死ねとは流石に思えないが「彼女居る居ない云々は関係ない!今でもお前に気があると思え!」と釘を刺されている。
態度を見れば、やっぱり僕にはそんな感じはしないとしか言いようがないけど、それを全く無視する事も出来ないだろう。
「ごめん。ちゃんと聞くから…ちゃんと話して欲しい。」
僕は、座り直すと、真っ直ぐレイを見つめた。
レイが驚いた様に、目を見開く。
「さっきは、変わってないとか言っちゃったけど…
やっぱ、ひー変わったかも…電話の時もそうだったし。
例の好きな人のお陰?」
「え?そう?ああ…う…うん。そう…かな?自分じゃわかんないけど…」
「で、どんな人?」
「も、もう、僕の話はいいから!レイの話しに戻してくれ!」
「うわ…照れてやんの。妬けるねぇ。」
「もう、いいってば!!」
「なんか、これで、改めて痛感…」
「どういう事?」
「ん?さっきも言ったけど、俺、ひーも俺の事好きだと思ってたんだよね。」
レイは、自嘲気味に笑いながら「だからか、あの頃、俺、すげえ焦っててさ…」と続けた。
「焦ってた?」
僕は話を促した。
レイが一つ頷く。
「なんつーか…ひーが、俺とばっかりじゃなく、他の奴と遊ぶのは、いいことなんだけど…
いや、本当、恥ずかしいんだけど…とられた様な気になってさ…」
「は?取られた?」
僕は素っ頓狂な声を上げていた。
この感情だって、最近、身を以て知った事の一つだけど、それは、相手に恋愛感情がある、もしくはあった事を前提にしていたはずだ。
当時、女の子に言い寄られる事はもちろんだが、特定の人と遊ぶ事さえ無かった僕に対して、そんな感情が芽生えていただなんて、どうしても想像出来なかった。
きっと、コジマさんなら、そう言う理屈じゃねぇと言うだろう。
だが、レイは、そうは言わなかった。
「いや——違うな…盗られるじゃなくて……俺じゃなくてもいいのかな?って思ったのが、一番、キてたんだと思う…」
あまりピンと来ない言い方だ。
つい、首が横に傾いた。
「ま、わかんないよな?」
と、レイは諦めた様に笑う。
僕は、僕を好きだと言ってくれる人に、よくこんな顔をさせてしまうのだと、今更ながらに思った。
家族ですら、僕に対して、よくこんな笑顔を浮かべていた様な気がする。
「なあ、何回も言うの、ちょっと虚しいから、ハッキリ聞いていい?」
レイが身を乗り出すのに合わせて、なんとか、俯きそうになるのを堪えた。
「なに?」
「実際、あの時——高校の時でもいいや。
ひーは、俺のこと、好きだった?」
タイミングがいいのか悪いのか、丁度、料理を運んで来た店員が、傍らで硬直する。
すぐに何事もなかった様に給仕をしてくれたが、どう考えても気まずい雰囲気だ。
食器が触れ合う音がやけにうるさく聞こえる。
恐らく、一番気まずいのは、僕たちと同い年くらいの男性店員だろう。
めちゃくちゃ、噛みまくってた。
でも、彼のお陰で、考える余裕が幾分か出来たのは事実だ。
申し訳ないけど、ありがとう。
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