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そのまま引きずられて店内へ入ると、その暖かさに自分の体がかなり冷えてしまっていた事に気付いた。
「鼻真っ赤だよ。ってか、鼻水…」
ぼうっとする僕を見て、奴はぷーっと吹き出した。
元気良く突っ込める気力がない。
鼻水垂れてんのか…と、ぼんやり思いながらゴソゴソ鞄を漁りポケットティッシュを探していると、奴がどこからかティッシュを出して僕の鼻に当ててくれた。
「ありがと…」
ズズッと鼻を啜りながら続け様に手渡されるティッシュを受け取る。
奴は、暫く僕が鼻をかむのを眺めたあと、静かに口を開いた。
「あんな所でなにやってたの?」
「ん…あ?いや、別に…」
「ってか、大丈夫?横断歩道の上で立ち止まったり…」
「ああ。あれは、車が来たかと思ってつい…」
「いやいや、車来たと思ったなら、避けなきゃ!」
今日は奴がツッコミなのか。
僕はとことん、なんだか調子が出ない。
そんな当たり前の事を突っ込まれても、上手い返しも出来ず「ああ。それもそうだね。」と言うだけだった。
「あぁ…でも、そっか…」
僕に構わず、奴はなにやら一人で納得したかと思うと、いつも以上に妙な事を言い出した。
「あそこでひー君が轢かれそうになって、俺が間一髪で救出し、『あぶねぇだろ!馬鹿野郎!』って怒鳴った後、『無事で良かった…』ってひー君をギューっと抱きしめて『結婚してくれ。』って言うっていうのが、ベストな展開だったんじゃない?」
「それは、ベストじゃなく、ベタな展開だ。」
あまりに奇妙な発言に、回らない頭でも自然とツッコミが浮かんだ。
僕もあの時は、かなり昔のトレンディドラマだとか昼ドラ的な、手が届く一歩前の処でどちらかが轢かれるみたいな展開を予測したけど、普通に生活してたらそんな事……ないわ。
それに、結婚って…まだ言うかこいつ。
やっぱり、一人で思い詰めてたのがバカみたいだ。
なんだか、とてつもなく腹立たしくて、虚しくて、バカバカしくて…
頭がぼんやりするのも重なって、僕の目頭が急速に熱くなった。
「ひー君、どした?泣いてるのか?」
「泣いてない…」
言った瞬間、ポロリと涙が零れた。
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