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夏休みの前に
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家に帰っても、勉強する気になんてなれなくて僕はいつもリビングでダラダラしてしまう
今日もそうだった
ダラダラうだうだ、頭の中を占めるのは勉強よりも由希也くんのこと
そんな僕に母が言った
「最近。あの子来ないわね??」
あの子とはもちろん由希也くんのことだ
「う...うん」
「なに?ケンカでもしたの?」
能天気な声で聞いてくる
ケンカならどれほどいいか
「べつに....」
そういうしかなかった
だって今の状況なんて....なんて説明したらいいのかわからない
彼の過去を知ってみんなが彼のことを軽蔑した目でみて
そのまま彼は学校に来なくなっちゃた
誰かに聞いて欲しくて
問題の答えを教えてほしい
でも言えない
僕は母に本当のことをいう勇気など持ち合わせてなかったけれど聞いてみたいことがあった
「あのさ.....」
母は僕の神妙な顔を見て料理をする腕をとめて僕と向かい合った
僕が聞いたのは横浜の心中事件を覚えているかということ
僕自身は知らなかったけど親ならきっと新聞やニュースをちゃんと見ているだろうし、記憶に残っているんじゃないかって思った
「あー.....あったね!たしか!すごかったもん!ニュースがその話題で」
記憶をたどるように母はそのころのテレビでやっていたであろう情報を話した
「たしか教え子と付き合ってたみたいでね、しかも男の子、でもその先生、婚約者がいたって話!
もー!びっくりよね!」
「そ....そうなんだ」
「まったく、生徒巻き添えに、死のうだなんて!教育者が聞いてあきれるわよ!」
言いながら妙に感情移入して話す母にちょっと驚いた
「そんな感じだったんだ」
「あんたと同じ年だったし、その子の親の気持ち考えたら...生きてたからって許せないわよね!」
ますますヒートアップしていく
母は同世代の子供を持つ親としてこの事件に対して腹を立てていた
きっと当時のテレビでも同じように世間は怒りこぞってこの事件を取り上げたのだろうことが容易に想像できる
「そ...その子って...どうなっちゃたのかなぁ...」
僕は独り言のようにつぶやく
すると母はいった
「どうかわからないけど..だいぶ傷ついているはずよね?相手は死んじゃって、自分だけ助かって...
一生苦しんで生きてくのかもしれないわよ?そんな子供にそうさせるって...全くその先生ってやつ.罪深いわよね!!」
******
僕はベットに入り、一人考える
母に言われた言葉を
どうせ夜は彼のことを考えて眠れないんだ
そう思うとなんか節々に思い当たることがあったような気がする
親のことを考えるといたたまれない
だからは彼はお母さんとの時間大事にしているのかなって
今言わないと、明日言えなくなるかもしれないから
いつか彼に言われた言葉
それは....その人が死んじゃったから?
手慣れたようにキスをするのも経験があったからで
太宰の本が嫌いなのも、このことがあったから?
あのとき、図書室で、僕と一緒に死んでくれるか聞いたのは....本当に冗談だった?
君はいつもどんな気持ちでいたの?
君はどんな思いを抱えていたの?
僕が君を好きだと言ったとき本当はどう思っていたの?
あの日、君を追いかけられなかった僕をどう思っているの?
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