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由紀也の場合
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「先生...どこまで行くの?」
走り出してそのまま先生の車に乗り込んだ
後ろから何か叫んだ花田先生の声が今もまだ耳に残る
あれから何時間車を走らせたのか....あたりは真っ暗で街灯すらないようなところまで来ていた
「今...何時かなぁ...」
僕が何を言っても先生は無言だった
これからどうするのか、どうなってしまうのか...先生の言葉が欲しいけど聞くのが怖い
僕は黙って助手席に座るしかなかった
車の窓から景色を眺めても何もない、ずっと同じ道が続くだけだった
それからしばらくして僕の方の窓が勝手に開いた
先生が運転席から窓を開けたようで、驚いて振り返る
「海だぞ」
そういわれて開いた窓に僕は食らいついた
真っ暗で何も見えないけど、窓から入る風を吸い込むと潮のにおいがした
車の走る音に紛れて波の音が聞こえた
「降りようか?」
先生がそう言って車を止める
あたりは真っ暗で波の音だけがする
潮風が体にまとわりつくように吹きつけて僕を迎えていた
「ほら」
と言って足元がおぼつかない僕に先生は手を差し出す
繋がれた手が力強くて、安心する
あの部屋以外で先生と手をつないだことなんてなかったなぁ...
こんな風に外で手をつなげるなんて....たとえここが誰もいない真っ暗な海だって全然違う
僕はつながれた手が離れないようにもっと力を込めた
砂浜に出るとより一層潮風がきつい
「こんなところまで来ちゃったな」
そう言って僕を自分の胸に引き寄せると夜風に冷える体に先生の体温がしみてくる
「あったかい」
その体温が心地よくて、顔をうずめるように抱きついた
先生が何か言ってくれないと何も言えない
先生は僕の手をとって近くの岩場に座らせた
「こんなところまで連れてきて、、ごめんな?」
先生はそう言って僕の髪を撫でる
「これから...どうするの?」
見上げた先生の肩越しにきれいな月が出ていた
「そうだな...どうしようか...」
それは嫌でも考えなければいけない現実だった
明日には学校にも家にも知られることになるだろう
先生とは一緒にいられなくなるのは僕にだってわかる
「ごめんなさい...」
先生のこと好きなんて言わなければよかった
そしたら先生は花田先生と結婚するはずだった
誰も傷つかなくて
そして、先生にこんな顔させることなかったはずなんだ
そう思うだけで涙がこみ上げてくる
ただ好きだっただけなのに
それだけだったはずなのに、先生が答えてくれるから
好きだと言ってくれるから...
だから何度も何度も言ってほしくて
わがままに欲張った
決して困らせたかったわけじゃないのに。
「お前のせいじゃない。全部俺が悪いんだ。」
僕の涙を指で拭いながら何度も何度も先生はそう言った
「教師として、お前をちゃんと導いてやらないといけなかったのに、、、」
そう言いながらまた泣きそうな顔をする
先生は僕に今後について諭すように話す
「朝が来たら、お前は戻れ。そして全部俺のせいにするんだ。いいな?そしたらお前は元どおりになる。」
「元どおりって?先生は...どうするの?」
「俺のことは心配しなくていい。大丈夫だから」
大丈夫なわけがないんだ。そんなの嘘に決まっている
全ては終わってしまうのだ
一体何がいけなかったのだろう
生徒と教師であること?
男同士であること?
僕が未成年であること?
先生に恋人がいたこと?
あるいはその全てがいけなかったのか...
「先生に借りてた本...返せなくなるよ?」
僕の髪に唇をつけながらくすりと笑う
地肌に吐息が熱い
「あれはお前にあげる」
あの本は、先生が僕だけの先生になった大事なもの
難しくて、読みきれなくて、それでも必死に分かりたくて、先生に少しでも追いつきたくて
「今なら...ちょっと分かるかも」
目を閉じると、頭の中に文字が浮かぶ
「先生がいないならきっと辛くて死んじゃうよ?」
ギュッと力いっぱい先生を抱きしめた
「お前は本当に馬鹿だな...だけど、そうさせたのは俺だな」
そう言った先生の声は震えていた気がする
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