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歩と由希也
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目が覚めて最初に目に映ったのは見知らぬ天井
その次は僕を覗き込む、泣き顔の母親
その母親をなだめるように背中をさする父親もまた目は赤かった
目覚めてからは、病院の先生や警察など入れ替わり、立ち替わり、いろいろな人がきて、いろいろな話を聞かれた
外にはマスコミの人達が病院の周りを取りかこみ、
テレビでは連日こぞって僕のニュースが取り沙汰された
「先生は...?」
誰に聞いても「気にしなくていい」とみんな笑顔で言った
『一人生き残ってしまった』
その言葉だけが頭の中を巡る
それからの生活はじつに淡々としていた
2週間ほどで退院してからはずっと家で過ごす
週に何回かカウンセリングに通わされ、おかげで一年間、家族と病院以外だれとも接することがないまま過ぎた
とはいっても今更、誰にも会えはしないのだけれど
この年頃の子供は憧れと恋の区別がつかなくなる
君は少し間違えてしまっただけだから
全て忘れてやり直せるようにみんなで力を合わせるからね
僕のそばにいる大人はみんなそう言った
それはそうであってほしい願い
置いていかれてしまった
離さないでっていったのに
そう思いながら毎日が過ぎるのをただじっと待つ
いつしか僕は卑怯な折り合いをつけていく
それは自ら手を離したということ
自分だけが生きているのはそれが罰だから
1年後、僕は母と引っ越して、中学最後の1年間を別の中学へ転校して通う事に決めた
******
「...で転校してきたら君に会ったんだ」
そういって、由希也くんは僕に笑った
あれから何時間たったのか忘れてしまうほどだった
彼が淡々と話すその過去を、僕は一言も口を挟まず聞いていた
「大丈夫??」
彼はそう言いながら机のグラスを手に取った
グラスの氷はもう全部溶けていて、グラスからは水滴が垂れる
「びっくりしたでしょ?」
そういって笑う彼はどこか他人事のようで、それがとても不自然に見える
僕は彼の座るベッドのシーツをつまみながら言葉を選び出す
「なんで...そんなに笑えるの?」
僕の問いかけに彼は目を瞠る
「辛かったんでしょ??なんで普通に笑えるの?」
すると眉毛を下げて彼が答える
「普通に見える?」
その顔は今にも泣き出しそうだった
だから僕は何も言えないけど、だけど、なにか彼にしてあげたくて彼の手に手をのばす
「だめ、触らないで?」
触れようとする手を払いのけてる
「ごめん。ちゃんとしよ?」
「ご...ごめん」
慌てて僕はあやまった。だけど...ちゃんとってなにを?
どうしたらいいのだろう
なんて声をかければいいのかわからない
僕なんかじゃ彼のこと全然わかってあげられない
そんな僕が彼にできることってなんだろう
「別れるのは、、、絶対なの?」
震える声で問いかけると彼は俯いて床を睨む
「歩くんは、僕といない方がいいから。分かるでしょ?」
彼の口から発せられる言葉は僕の心に重くのしかかっていく
そんなの分かりたくないのに
でも...こんな風に言わせてしまうのはあの日から連絡すらしなかった僕のせいでもある
「好きなのに...別れなきゃだめなの?」
つぶやくように僕は言った
「歩くんてさ...あの頃の僕に似てる」
そういいながら手の拳をぐっとにぎる
「僕みたいなったら困る...から」
そう言いながら少し震える手を隠すようにもう片方の手でにぎる
「後悔...してるの?」
「あの日、僕のせいで、先生は死んだんだよ?それなのに...」
「その先生がまだ好きなの?...なのに僕に好きっていったの?」
僕が問いかけたとき、彼はそれを遮るように声をあげる
「それはちがう!」
彼の目がみるみる潤んでいくのが見える
「それはちがう...」
そう言って泣いてる顔を見せないように手で顔をかくす
僕はその瞬間、やっぱり彼のもう片方の手を強く握った
彼は振り払おうとしたけど、僕はもっと強く握って離さなかった
「言ってよ」
僕は手を握ったまま、彼の言葉を待った
黙ったまま、顔を隠していた彼はしばらくして小声話し出した。
「あんな事があって...でも、誰も知らない所にくれば...」
次第に泣き声が大きくなりつっかえつっかえ話す
「友達が、できたらいいなって...思ってただけなのに...君のこと好きになっちゃった」
そう言って最後に「ごめんなさい」と言った
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