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ループ
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風太がアルバーニの無事を祈ってる頃、そのマンションの別の部屋では、菊嘉がベッドに眠る少年をじっと見ていた。来るべきか迷ったものの、樹雨に同行してここまで来ていたのだ。
鞄から取り出した、採取したばかりの樹雨の血が入った注射器を手にし、逡巡している。決断を任せる為に樹雨を呼ぼうと思ったが、あちらは何やら取り込み中の様子で、先程は怒った声や物音が響いていた。
「どうしたらいい…、」
浅い呼吸、低い体温、小さく青白い頬。この部屋にネーヴェを見つけた時に、呼びかけ、揺さ振っても眠りから覚める事はなく意識がない事を確認している。
何が原因なのかと探るうちに、薄い掛け布団の下の、着脱しやすい簡素な衣の胸元から包帯が見えているのに気付いた。紐を解けば、簡単に裸が晒される。白く美しい体には不似合いなそれを解けば、歪な傷跡は生々しく傷口から血を滲ませていた。それは、大きな違和感。彼の、狼男としての再生力が終えている結果なのだと認めるまでに、少し時間が掛かった。
この傷はアルバーニの仕業とは思えない、だとしたら彼が自らやったのだろう。
「君は、死にたいと願っているのか。」
残された時間はない。きっとこのまま、彼は近いうちに息を引き取るだろう。だからこそ、アルバーニは強行な手段に打って出たのだ。
「先に延命を施したのは僕で、次は君が僕を…そしてまた同じ事を繰り返すのか?僕の体なんて欠片一つ残さなければ、君はもっと望む様に生きれた筈だ。そうすれば僕とは会いたくもないなんて、思われずに済んだのに。」
愛してるからこそのループを断ち切るなら、今しかない。アルバーニが風太をさらってまで欲した狼男の血は、この少年を延命させる為のものだろう。しかし、それはネーヴェの望む形ではない筈だ。いや、遡れば雪としての人生を与えられたのも意に反する事だったかもしれない。彼は再生し、新しい自分の姿を見る度に絶望しなかっただろうか。
「僕はどうだ…今、こんな場面に立たされている事を恨んでさえいる。菊善としての記憶があれば少しは違ったのか…いや、記憶を持ち続ける方が辛い事もある。」
ならば、終えるべきだ。手に持っている注射器を床へ落とし踏んでしまえば、こんな苦悩からは解放される。
「いや、それよりもっと確実な…」
再び注射器を見る。この量であれば、記憶を失くす為に十分だろうか。ベルーガを忘れたかつての自分の様に、雪を忘れ、この少年を忘れ、そして菊嘉という存在も消すのだ。
「…で、これ大丈夫なのか?」
血は止まったものの、呻き声一つあげなくなったアルバーニに、風太は思わず耳を胸に付ける。手錠は樹雨が壊してくれたので、今は服を着ていた。
「心音が聴こえない…気がする。」
青ざめながら呟く風太の隣に屈み込み、樹雨が獣耳を寄せたが直ぐに離れる。
「動いてるよ。ああ、でも人の耳には聴こえないかも、ほぼ停止状態に近いからさ。」
「それって、死にそうって事か!?」
焦っている風太を横目に、樹雨は残念そうに首を振った。
「ううん。むしろ成功、これから復活する為の準備期間。仮死状態から若返る。」
「はあ…びっくりした。」
「あーあ。こいつ置き去りにするのはダメかなぁ、菊ちゃんに相談してくる。」
樹雨が立ち上がる。風太は、アルバーニの血で汚れた服の着替えやタオルを探す為に一緒に部屋を出た。
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