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電話
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「それで、この間おじいちゃんの七回忌に行って来たんだけどね…、」
風太は電話越しの長話に、あーうんと生返事し適当に相槌を打つ。母親の言うおじいちゃんとは、風太にとって父方の祖父であり、遠方の為、自身は葬式にも参加していなかった。かの田舎町を訪れたのは、小学五年生の夏休み一度きりだ。というのも、亡くなった祖父と父との仲があまり良好ではなかったのが一番の原因で、ずっと疎遠にしていた。
「そういえば壮琉くんに会ったわよ。大学からこっちの県に出て来てたんですって。〇〇市で就職したらしいから、風太の近くね。」
「へえ、こっちに居るんだ。」
「懐かしそうにしてたから、そのうち会えばいいじゃない。連絡先とか必要だったら、お義姉さんに聞いとこうか?」
「いや、また今度でいい。仕事も忙しいから。」
就職後、実家を離れてからは何かと連絡してくる母親の事は嫌いではないが、少々煩わしい。しかも、祖父母宅に同居している父親の兄夫婦の子である壮琉には、そういい思い出はない。風太としては、今後会わずとも良い人物だ。
「そう…。まあ、連絡先必要になったら言いなさい。壮琉くん、礼儀正しくていい子よ。じゃあね、一人暮らししっかりやんなさいね。」
そう言うと、母親はかけてきた時と同様に唐突に会話を終えて切った。
「あのタケルが好青年とか、月日の流れは恐ろしいな。」
そんな事を独り言ち、眠りに着いたのがいけなかったのか、あの幼き日の回想が夢に混じった。
ただいまー!
祖父母の家に帰った風太と壮琉は、迷子の動物を保護した事を告げ、飼い主に連絡を取って貰う事にした。壮琉の母親が電話をしたものの相手は留守で、仕方なく留守番電話に用件を告げ、その日は二人で面倒を見る事になった。
おい、こいつ十円ハゲがある!
壮琉が笑いながら、毛に隠れていた地肌の見える場所を指差した。確かに円形に脱毛している。風太は眉を顰めた。
痛そうだね。どうして毛が抜けたのかな。
あ、ひらめいた!こいつ十円玉って名前にしとこうぜ。
えー、何それ。ひどいよ。
風太には理解出来ないが、壮琉はその呼び名をすっかり気に入り、十円玉とやたら繰り返す。しまいには、気乗りしない態度の従兄弟に苛ついたのか腹チョップしてきた。
どうせ迎えに来るまでの間なんだからいいだろ。名前なかったら不便じゃん。
結局そうやって押し切り、縁側は暑いと文句を言いながらアイスを取りに行ってしまった。
十円玉という名前を仮に貰った小動物は、大きな瞳でじっと風太を見つめ続けている。
ごめん、十円玉なんて嫌だよね。タケルくんは意地悪なんだ。ミルク飲まないの?
十円玉は少し温めてあるミルクを見て、味を確かめる様に一口舐める。喉が渇いていたのかお腹が空いていたのか、微かに水音を立てながら飲み始めた。
早く迎えが来るといいね。…本当は、僕が飼いたいんだけど…飼い主さんがいるもんね。
大人達が、きっと何かの血統書付きの珍しい犬か猫だろうと言っていたのを思い出す。だったら尚更、飼い主に渡さなければならないのは子供ながらにも理解していた。
おい、ぶうた。あんまり十円玉にかまってると別れがつらいぞ。ばあちゃんも言ってたろ。
アイスを押し付けて来る壮琉に礼を言い受け取る。風太は、迎えが少しでも遅ければいいなと思った。しかし彼自身も明後日には帰宅する身だ。
もし、明後日までに迎えが来なかったら…。
そん時は、こっそり連れて帰れば。
うん。
しかし願いも空しく、迎えは翌日の朝早くにやって来た。眠りの中にいた風太と壮琉は、十円玉との別れに結局は立ち会えなかった。
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