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逃亡者
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「何故見つからないんだ。マイクロチップは埋め込んでいた筈だろ!」
まだ17歳の少年は腕組みし、強い口調に苛立ちを込める。彼とは対照的に静かに立つスーツ姿の男性は、細縁眼鏡の奥の瞳を伏せた。
「申し訳ございません。マイクロチップは取り出されていました。」
その報告に、片眉が跳ね上がる。GPSを頼るのが難しいという事は、これからまだまだ捜索に時間がかかるという事だ。
「秋吉、」
後見人であり世話係でもある男を冷えた目で見据え、歳上である事など気にもせず言い慣れた名を呼ぶ。
「僕は気が短い。早く探せ。」
「はい。」
美しい姿勢で一礼し、部屋を出ようとする後ろ姿に声を掛ける。
「ああ、もし捕獲する時に抵抗する様なら傷を負わせても構わない。殺さぬ程度にな。」
「はい。」
努めて感情を込めずに返事をし、改めて一礼すると秋吉は扉を閉め息を吐いた。
グラスに注がれた牛乳をちょっと飲むと、テーブルに置かれた冷奴の匂いを嗅ぎ、醤油も薬味もかかっていない部分を箸で取ってあーんと開けた口に入れ、ゆっくり咀嚼している。
「なあ、壮琉の仕事って何だ?」
風太は好奇心に負けて聞いてしまった。どう考えても、スーツで営業などとは程遠い姿。まず、その柔らかな色に染められた長髪は無いだろうと、心の中で突っ込む。いや、似合うか似合わないかで言えば似合っているので、やはり有りなのか。
「んー、仕事は…してなくて。えっと、逃げた…感じかな?」
「はあ?それって、…今、」
無職、の二文字を辛うじて飲む。
「それでね、住む所も無いから泊めて。」
「はあっ、」
いや、待て待て!と風太の頭の中で母親の話がこだまする。確か、この近くである〇〇市で就職した礼儀正しくいい子だった筈。それが実は、仕事から逃げた挙句の今は無職で家なき子。今すぐ実家に帰れ!が喉を出そうだ。
「豆腐、もっと食べたい。」
「…そこに有るだろう。」
「ネギと生姜はいらない。醤油も味が濃いから嫌。」
このやろー。頬が引きつる。
「冷蔵庫から勝手に取れ。」
「うん。ありがと。」
嬉しそうに席を立つのを見れば、怒っているのが馬鹿らしくなる。
「まあ、今夜だけなら…。」
一晩の宿くらい提供してもいいだろう、と風太は残された冷奴を口へ運んだ。
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