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避暑
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日本のとある県の、山一つが私有地である広大な地にぽつりと建つ館は、都会の喧騒から逃れた静かな場所にあった。そこは資産家の別荘であり、所有者の本宅はアメリカにある。本宅よりは狭く年季の入った洋館であったが、庭の手入れは行き届き、建物は充分に財を投じた物だと見て取れた。それもそのはずで、管理会社に警備、清掃、修繕などを全て一任してあり、いつ訪れても快適に利用出来るように配慮してあった。
その資産家の子息が避暑のために日本へ来るという連絡が管理会社に入ったのは、日本では盆休暇の時期にあたる一月前の事だ。
この時期は日本も暑いですね。そろそろ中へ入りましょう。体に障ります。
麦わら帽子を被った幼い子は、手をつないだままサングラスをかけた男性を見上げた。夏も終わりに近づき、庭の向こう側の樹々からセミが盛んに鳴いている声が響く。
せつちゃん、きくちゃんの熱は下がったの?
ええ、今は寝ています。大丈夫ですよ。ここは相変わらず空気が澄んでいます。養生するにはいいでしょう。
そっか。早く元気になったらいいね。
そうですね。あなたも体調には気を付けて下さいね。まだ体が未熟で不安定ですから。
うん!
それから、前にも言いましたが決して一人でここを出てはいけませんよ。
白い指先が、庭を囲む高い石垣と唯一の出入り口である黒い門を指差す。
ここへは三日に一度の食料品の配達や清掃会社の車が決められた時間に門を出入りする。その間はじっと部屋で過ごさなければならず、好奇心溢れる子供には退屈な時間であったし、慣れない他人の気配がする事に怖くもあった。
ねえ、この向こうには何があるの?
そうですねえ、今のあなたには少し大変な世界です。
いつか、行ってもいい?
ええ。大人になれば。
おとな…。それって明日?それとも明後日?
ふふ。
サングラス越しに優しく微笑む彼の白髪は光を弾きキラキラと夢のように輝く。幼心にも、それを美しいと感じた。そして、彼の匂いが自分の中にも混じっているのを誇らしく思う。
おやつにしましょう。美味しそうな桃を届けて貰ったんです。
もも!もも!やった!
大好きな果物に、子供の紅茶色の瞳が輝く。つないだ手をぶんぶんと振りながら、早く!早く!と玄関へ向かった。
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