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少年
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平常は、予定されている清掃会社と警備会社と食料配達の訪問しかないはずの別荘のドアホンが来客を告げた。
「ちっ、誰だよ。」
小声で文句を漏らす。ゆっくりと寝顔を堪能する平穏な時間が邪魔をされた。顔をしかめ、隣に居る麗人が先ほどの音で眠りを妨げられてないか確認する。彼は青白い頬に白い睫毛を伏せて、無防備に全裸のままで横たわっていた。
それに安堵して、そっと互いを包む薄物の羽毛布団を抜け出し床に落ちていたバスローブを羽織る。これ以上音を鳴らされないようにと急ぎ室内モニターで訪問者を確認し、途端にげんなりした。
「…何でここに居る、アルバーニ。ステイツでやるべき仕事は?」
「おはようございますボス。何故と言われる意味が分かりません。私は確か、貴方様の優秀な秘書ですよね?全て順調に終えて参りました。」
問いかけが日本語であったので、それに応え流暢な日本語で返答する彼は、アメリカに置き去りにして来たはずの秘書だった。彼はイタリア系アメリカ人で、英語、イタリア語、日本語を使いこなすトライリンガルだ。
「優秀な秘書…まあな、そこは認めよう。入って来い、玄関の前で待て。」
門を開くボタンを押し、秘書を招き入れる。そうでもしないと延々と立ち話をする羽目になるだろう。
「…誰か来たのですか、菊嘉?」
まだ夢の中に居るような声が問いかける。寝ぼけているのか、最近は様付けで呼ばれる名前が昔のままだった。きくか、そう優しく囁くほどの声音で言われると心が躍る。
「もう一度、言ってくれ。」
「誰か来たの菊嘉……様。」
途中で意識がはっきりとしたのか、秋吉はハッとして身を起こす。
「申し訳ありません、来客なのですね。直ぐに身支度を整えます。」
慌てる彼が眩しそうに窓からの光に目を細めた。彼の色素はとても薄く、瞳は陽の光を直に受け止めるには弱い。
菊嘉は秋吉の眼鏡をサイドボードから取り無言で渡し、床から昨夜脱がせたシャツを拾うと肩にかけた。
「ゆっくりでいい。アルバーニだ。待たせて構わない。」
「ああ…、呼ばれていたのですか。」
菊嘉自身がスケジュールを連絡したと言っていたのを思い出し、彼の事を同時に呼び出していたのだと解釈する。
「まさか、勝手にやって来た。だから嫌なんだあいつ。言葉が通じない。」
ぶつぶつ文句を言う少年らしい姿を見て、秋吉は口元に笑みを浮かべた。思えば、二年前まではもっと子供らしく何でも気軽に話してくれた。なのに、今は、
「浴槽に湯を張ってある。しっかり温まってから来い。僕は先にアルバーニと打ち合わせをしている。」
言いながら、既にクローゼットルームに向かっている。その顔はすっかり一人前に自立し、秋吉の手助けなど必要無い口振りだ。
「はい。」
眼鏡越しに見送り、きちんと着るには用を成さないシャツの前をしっかりと合わせてベッドを降りる。少し目眩がして、思わず降りたばかりのベッドに手を付いた。今、ここに彼が居ない事にほっとしてじっと目を閉じ耐える。じわじわとシーツの感触が手から伝わり、正常な平衡感覚が戻って来る。そろりと足を動かし、この部屋に備え付けのバスルームへ向かった。
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