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疑惑
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すっきりとした髪型になった壮琉は、美容室帰りに風太と一緒に訪れたコンビニを物珍しく見て回る。
「ねえ、色んなものが少しづつ置いてあるね。スーパーとは違う。」
「うん、何か買いたいのある?」
「んー、」
一応、バイトの募集の貼り紙は確認した。風太のアパートからも徒歩五分。差し当り少しの貯金はあるし、風太には定職もある。働くのは今直ぐ、とは言うつもりはない。もう少し壮琉の生活能力を見てから判断しようかと、風太は炭酸水を手に取った。その隣で壮琉は、ペットボトルに入ったフルーツジュースを手に取り、匂いもしないだろうにくんくんしている。
「それ、買おう。うちにはミキサー無いし、生のフルーツジュースには味が劣るとは思うけどさ。紙パックのよりは値段も高いし、美味いんじゃないかな。」
「うん、ありがと。」
嬉しそうに笑うので、風太も微笑む。長い髪が短くなっても、その可愛らしい面立ちに良く似合っている。髪が短くなった事で顔の小ささが際立ち、奥まで澄んだ紅茶色の瞳が一層魅力的に見える。
「なあ目の色って、昔からこんなに薄かった?でも、相当会って無かったし記憶も曖昧なんだよな。」
「うん。初めて会った時から変わってないよ。ずっとこれ。風太は身長がとっても高くなったね。」
「まあ、あの頃は横に大きかったもんな。壮琉には、ぶうた呼ばわりの上に腹チョップされたし、ほんと乱暴で酷い奴だと思ってたんだけどな。」
「あー…えっと、ごめん。」
眉を寄せて少し困った顔をする。
「ああ、ごめんごめん。別に嫌味とかじゃなくて、性格丸くなったなあって思っただけだから。」
「…うん。」
「そういや、うちの母さんと久々に会ったんだろ。礼儀正しくて良い子とか、壮琉の事を褒めてた。えーと、先々週だったっけ?」
風太が祖父の七回忌の日程を思い出そうとしていると、
「あ…、うん。偶然にも、近くでばったり。」
その言葉に風太の脳内スケジュール帳がぱたりと閉じた。ん?、とペットボトルを手にした壮琉を見る。なに?、と壮琉は首を傾げた。
「いや…もう他には欲しいのない?」
「うん。」
レジで言われるままに金を払う。その間も、頭の中では壮琉の言動を振り返る。
母親は法事でしか壮琉と会っていない筈だ、そんな口振りだったとあの時の会話を反芻する。何か、とてつもなく怖い考えが浮かぶ。
この、隣を歩く奴は誰なんだ?
いや、でも、と風太はハッとした。十円玉の名前を出した時、壮琉はそれが何か知っていた。風太の言う十円玉が、小銭ではないとちゃんと解っていた。
なんだ、やっぱり壮琉じゃん。
風太は胸の中に芽生えた不安を払うように、ふうっと息を吐く。変な汗をかき、買ったばかりの冷えた炭酸水を飲んだ。
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