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パプリカ
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風太はフライパンで鶏肉とパプリカを焼きながら、壮琉の危なっかしい包丁さばきを見守り、彼の夕食である切っただけの野菜とフルーツの盛り合わせを完成させたのに胸を撫で下ろした。
「なあ、それだけが夕食って足りなくないか?ずっと思ってたけど肉は食わないの?昔は好物だったろ。」
「…うん。アレルギーになったんだ、魚もだめ。」
「ふうん。アレルギーなら仕方ないよな。だからそんなに細っこいんだな。昔はもっと色黒で体も大きかったのに。」
「あー…確かに横はそんなでもなかったけど、風太より上には大きかったね。」
昔を思い出すように壮琉の視線が上を見る。
「それ、嫌味か。確かに俺は太ってたけどさ。考えてみれば、あの頃は食欲のままに食ってたもんな。一人っ子だから食べ物も充分に与えられていたし、」
そして母親も過保護だった。風太自身、太っている事を恥ずかしく感じたのは壮琉の仕打ちがきっかけだった様に思う。それから食事量が減ったし、成長期のおかげで肥満は解消した。
「そういや、壮琉のところって下に妹だか弟が出来たんだろ。なんか、そんな話を聴いた気がする。」
風太は焼けた鶏肉を皿に盛り、パプリカを添えた。にんにく、ピーナッツ、豆板醤と醤油ベースで作ったソースを最後にかければ、香ばしい肉の匂いと相まり食欲をそそる。しかし、壮琉の返事はない。しゃがみ込み一人暮らし用の冷蔵庫を開けて牛乳を取り出している最中で、どうやら風太の言葉が聴こえなかったようだ。わざわざもう一度する話でもないと、風太は出来たばかりの料理をテーブルへ並べる。
「風太ー、何飲む?」
「ビール。」
狭いアパートなので声を張り上げなくとも直ぐに返答が返る。
「はーい。」
ふと、やはり違和感を感じる。さっきはもっと近くで話していたのに、何故聴こえなかったのか…いや、もしかすると聴こえていた上で答えなかったのか。それは、どうしてだろう。
答えを言えないからじゃないか?妹か弟か分からないから…。
また、背筋が冷える。でも先ほど、子供の頃は自分の身長が風太よりも高かったと言ったばかりだ。牛乳とビールを手にした壮琉がテーブルの前へ座り、ビールをはい、と差し出されて受け取る。
うん、こいつは壮琉だ。大丈夫。でも…本当に?
ふと、母親の顔が浮かぶ。不安を無くすには、直ぐにでもスマホを手に取りタップすればいいだけの話だ。成長した壮琉の容姿の特徴を確認すればいい。もしくは、連絡先を教えてもらうなどの手もある。いや、それは無駄だろう。目の前に居る壮琉は携帯を所持していない。
今は、…いいや。腹減ったし、夕食を食べてからでも遅くない。
「うー、リンゴおいしー!」
切っただけの皮付きリンゴを頬張り壮琉が笑う。明るくて曇りのない笑顔。これが嘘で塗り固められている者の表情なのか…風太の迷いは尽きない。
「ねえ風太。その赤いのちょうだい。ソースがかかってないの。」
パプリカを指差し、甘えた声を出す。首を少し傾ける角度も計算づくと言うのなら、恐ろしいほどに風太の視覚に与える効果を解っている。
「うん。これか、」
「あーん。」
風太が箸でつまんだパプリカへ向け口を開けて待つ。少し細まった目を縁取る睫毛が淡く輝く。唇はリンゴの残り香を放ち濡れている。
ああ、駄目だ俺。
テーブル越しに身を乗り出し、パプリカを持ったまま目の前の唇を舐める。馬鹿、の二文字が頭の片隅に浮かぶ。舐めてしまえば、もっと先が欲しくなる。開けられたままの口へ舌を入れ、ねっとりと舌を重ねた。唾液に混ざるリンゴの味が脳を侵食し、じわじわと思考が鈍り体が熱くなる。
「っふ、ん…、」
壮琉の漏らす息、濡れた音。食事前の飢えた体と脳を、食欲を押し退け性欲が支配する。
「壮琉…、」
風太の呼びかけに潜む欲望を察知したのか、壮琉が食べかけのリンゴを手放し腕を風太の首の後ろへ絡ませる。
「風太ぁ…、」
ぽとり、赤いパプリカは箸をすべりテーブルへ落下した。次いで箸も落下する。皿にぶつかり音を立てたが気にしない。風太は二人の密着を阻む邪魔なテーブルを押し退け、ラグを引いた床の上へ倒れ込む。上に重なり、性急に壮琉の薄い体を包むTシャツをたくし上げた。
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