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誘い
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アルバーニは、菊嘉が研究室から出る気配がないのを見て、夢中になっている時は無駄だと分かっているので声も掛けず、予定通りに一人で日本支社を出た。時刻はランチタイム前、タクシーに乗り込み宿泊先のホテルを目指す。
『ああ、そうだ。洋服を用意しないと、』
思い出し、ホテル近くでタクシーを降りると、目に付いたメンズ物の洋服店へ鼻歌でも歌い出しそうな様子で入って行った。
開かれた扉の中へ入ると、既にテーブルの上の料理は片付き、バスローブ姿の麗人だけが居た。しかも滞在してからずっと閉ざされていたカーテンが開けられ、明るい日差しのおかげで、豪華な室内の様子を余すことなく見る事が出来た。
『ルーカ、どうしました?』
この時間帯に訪ねてくるのは予想外だったのか、秋吉は眼鏡越しに見上げて来る。
『ああ…、食欲がない様だったから、少し気分を変えて外食でもどうかと思ってね。まあ、デートの誘い。』
『あの、菊嘉様は研究室に?』
デートの誘いという文句には無反応で、菊嘉の心配をしているのがアルバーニの気に触るが、それはおくびにも出さず軽く肩を竦めた。
『君の察しの通り。』
『ああ…、研究に夢中で昼食を忘れてしまっているんですね。後で、何か差し入れをして頂けませんか。』
『それは、デートの誘いを受けてくれるという返事?』
頼み事を聞くのなら、それ相応の見返りを求める。それはいかにもアルバーニらしいが、秋吉は首を振った。
『外出は難しいのでは?この姿で出掛けるなど、私には無理です。』
『ははっ!そう言うだろうと思って、ちゃんと服を用意しているよ。さあ、着替えたら出掛けよう。今朝よりも、ずっと顔色も良くなっている事だしね。』
紙袋をかざしてそう言われ、秋吉はハッとして自分の唇に触れた。それは無意識の行動で、アルバーニはそれを見逃さなかった。秋吉の唇はしっとりと紅く、相変わらずの色白さだが久しく見なかった血の気の通う人間らしい顔色。白髪は銀色に見える程にツヤがあり、全体的に若返っている様にも見える。
『誰か、来客があった?』
紙袋を受け取った秋吉が、着替えの為にバスルームへ向かう足を止め振り返る。
『…いいえ。』
少し間を置くその返事に、アルバーニは目を細めた。間違いなく客は居た。そして、その変化は客人のもたらしたものだろう。それは菊嘉ではない。
『そう?だけれど…、』
一気に間合いを詰めると秋吉へ顔を寄せる。
『とても唇が紅い、まるで血の色だ。誰を食べたの?』
紅茶色の瞳が大きく開く。唇がきゅ、と結ばれ警戒心を覗かせる。
『ふふ、冗談だよ。』
バスローブに包まれた細い肩へ腕を回し、抱き込む様にバスルームへ促す。
『人を食べるといえば…イギリスの童話だけど、狼男の話を知ってる?』
『狼男…、』
『そう。狼男は、本当に人間を食べようとしたのかな、どう思う?』
『…どうと言われても、何も思う事はありません。』
秋吉が強張らせた体を遠ざけようとし、逆に腕を掴まれ更に密着する。
『そう?君には分かるんじゃないかな。』
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