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玄関
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目深に被ったパーカーのフードの下から大きな瞳がきょろりと動く。辺りに人気が無いのを見計らい、足音を極力立てずに廊下を進み、目指す扉の前に立つと素早く鍵を開け、中へ入り扉に背もたれ、玄関先に座り込む。やっと一息ついて、フードを払い除けた。
「はあーっ、つっかれた!!」
ごろりと狭い玄関で横になり、砂がつくのも構わずに手近にあるスニーカーへくんくんと鼻を寄せた。
「へへっ、風太の匂い。」
へにゃりと緩む頬。ミルクティー色の髪の間から出た、これまた同色の耳がぺたりと横に伏せられた。リラックスし、パーカーに押し込んでいた尻尾がジーンズとの隙間から飛び出して、ゆったりと揺れる。
「これ、駄目な感じだよねーたぶん。雪ちゃん…ごめんね。風太、そろそろ帰って来るなあ。」
反省しつつも、尻尾は揺れる。大好きな匂いに包まれ、ホテルからの帰路で迎えたタクシーの中での大ピンチをぼんやり反芻する。血を流し過ぎた自覚はあったし、これはギリギリだなぁとか考えていたら、今は久しいむずむずとした感覚が出て、咄嗟に着ていたパーカーのフードを被り間一髪で獣耳を隠して、背中をつけたシートとの隙間で尻尾をゴソゴソと収めた。おかげで、窮屈な思いをした。
「うーん…、耳と尻尾だけだし…、何とか誤魔化せないかなあ。時期は早いけどハロウィンだよーとかさ。でも、明日…はどうかなあ、元に戻るかな。いっそ、狼になってしまった方がいいかなあ。玄関の前に迷い犬って感じで寝てたら、風太は優しいから拾ってくれそう…。」
風太のスニーカーを抱えて、廊下に上半身を乗り出しごろりと仰向けに転がる。目蓋を閉じれば、昔助けてくれた子供の頃の風太が浮かぶ。
別荘の庭から冒険に出た幼い半獣の狼は、無力で小さく、そして何より狩猟本能の全くない毛玉だった。しばらく歩いた山の中でカラスの猛攻に会い、肉をつつかれ怪我を負った。並外れた修復能力がなければ、直ぐに弱り、殺されて食べられていただろう。
「風太、好き。」
スニーカーに癒され、体を回復させるべく眠りに落ちる。難しい考え事は彼の最も苦手とするところで、これまでもどうにかやり過ごしてここまで来た。主にそれは雪のおかげだったり、財力を持つ空露家の何も知らない兄思いの菊嘉のおかげだったが、本人はそれらについても深く考えた事はない。何れにしても、今は夢の中へ誘う風太の笑顔や優しい声が全てだった。
ガチャ、鍵を開けようとしてすでに開いている事に気付き、風太は顔をしかめた。不用心な同居人…今は同棲してると言えなくもない奴の顔を頭に浮かべる。これは軽く注意だなと、説教を考えながら中へ踏み込む。
「まったく!ただい…ま、っおわ!」
思いもしない塊に足を取られて躓きそうになる。ガッ、と咄嗟に靴箱に手をかけて体を支えた風太は、薄暗い玄関の狭い空間で冷や汗をかいた。
「ちょ、何でこんな所で寝てんだっ!」
背後で玄関の扉が閉まりにかかるが、男二人が占拠している為、風太の体に当たり、残り5センチほどの隙間を残して止まった。
めり込んだ革靴の先など気にせずに、依然として膝を折り畳み仰向けに寝ている小柄な体は起きようともしない。
「何だよ、まさか死んで…る?」
自分の発言に一気に心配になり、風太は身を屈めて頭へ顔を近付けた。ストッパーとなっていた風太が動いた事で、カタンと音を立て扉が閉まる。すう、すうと穏やかな寝息にホッと胸をなでおろし、その異変に気付いた。
「え…なんだ、これ、」
外からの僅かな明かりが無くなり、玄関は更に暗くなった。
柔らかな髪の間から、風太のいる方向へ向けて二つの何かがピクリと動く。よく見れば、スーツのズボンの膝に当たるふさふさ。それは意思を持つように、ぱたりぱたりと数回動き太腿を打つ。あまりにもリアルで繊細な動きと、ぬいぐるみとは違う色艶。これが作り物だとすれば、とんでもなく高価に違いない。
「は?…耳と、し、しし、」
しっぽおぉぉお!と叫ぼうとした声は、ぱちりと開いた紅茶色の瞳の持ち主に塞がれた。
「っん、ん、」
絡む舌に体が震える。風太はネクタイを下から掴む細い指先に体を持っていかれ、跪き、なす術も無く口を蹂躙された。
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