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「…忘れてたって、何。」
風太は、獣耳を両手で隠してうずくまってしまった樹雨へ呟く。
あー…うー…と呻き、紅茶色の瞳が腕の合間からちらりと相手の顔色を伺う。懸念していた嫌悪も、悪意も、恐怖も無い。少し目を見開くその表情は驚きや、呆れた感じの入り混じったもので、樹雨に対してよく見せる普段の風太の表情と変わらなかった。それに安心し、頭から手を離す。ぴょこんと立つ耳は短く柔らかな被毛に覆われており、ミルクティー色の輝きを放つ。
「もう隠すの無理だし、血も混じっちゃったし。そのうち話すつもりだったから今言っちゃうけど、俺さ、狼男なんだよねー。」
えへっと笑う。
「……いやいや、狼って。…その血が混じったら、俺も狼になんの?」
「ううん。複雑な仕組みはわかんないけどね、まあ簡単に言うと人間は狼男の血で若返るんだよねー。不老長寿の秘薬だってさ。びっくりした?」
絶句している風太に、可愛らしく小首を傾げる樹雨。そのまま硬直している肩に腕を回し抱き寄せ、鼻をうなじに埋め、思いきり深呼吸して匂いを嗅いだ。それからぺろぺろと耳の後ろを舐め、うっとりと頬を染める。
「…これが狼って、どっちかと言うと犬だろ。」
ぽそりと、小さく小さく心の声が溢れる。なのに獣耳はその声をきちんと拾った。
「んー?犬じゃないよ、見て分かるでしょ。狼だよ。」
言いながら、解かれたネクタイが襟にかかったままのシャツのボタンを外す。べろり、薄い皮膚の下にある鎖骨の形を舌で確かめ、目を細めた。風太の放つ匂いは、樹雨の本能を醒ます。今は特に、いつもよりも動物的な気分であり、体の芯が疼いた。
「わっかんねーよっ!!何だよ、犬とか狼とか……もう、もう、何なんだお前。」
「だから、狼男。」
その声に、鳥肌が立つ。確かに声は樹雨なのに、不穏な響きを受け取る。細い腕の拘束は解けそうで解けない、下から見てくる瞳が鋭く光る。前回、不本意ながらも深い関係となった時よりも、もっとまずいものを感じた。
「…だ、駄目だから、」
「なにが?」
目を少し逸らし尻を着いたまま、手のひらでじりじりと短い廊下を退がる。樹雨はそんな及び腰の風太の革靴を、片手でぽいぽいっと玄関へ放った。
「ここっ、…玄関、だし。し、仕事で汗かいてるから臭いし、…あっ、シャワー、そうだシャワー浴びてくる。」
風太は引きつった笑みを浮かべ、直ぐ近くのバスルームの扉へ目線をやる。とにかく今は、この危機を乗り越えたいと必死だった。
「大丈夫、風太はいつもいい匂い。シャワーとかダメだよ。ね?」
迫る艶やかな唇がこめかみにキスを落とす。優しく触れている筈なのに、脅しに思えてしまう風太は背中に嫌な汗をかく。決して視線を合わせず、なんとか部屋へ逃れたいと、後退しようとした手の甲を上から押さえられた。
「ひっ、」
短い悲鳴が口を突く。
「どうしたの?震えてる。」
震える指に絡む細い指。淡い茶色の長い睫毛の下、紅茶の虹彩の中に金の光る瞳と目が合った。その美しさに眼を奪われてしまえば、もう反らせない。
「ご褒美、ちょうだい。」
言葉に合わせた吐息が風太の結ばれた唇を撫で、顎にあるホクロをねっとりと舐めた。
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