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王子様
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うわ!舐めるなぁー!離せ!とジタバタ騒いでいられたのも最初のうちで、下半身を手中に収めている相手には敵わない。樹雨の柔らかな頭髪に手を入れ、風太は抵抗らしい抵抗も出来ずに喘いだ。舌で探られる違和感に涙が滲む。更には指まで侵入して来た。
「んっ、」
無意識に獣耳に触れる。つかの間、温度のあるベルベットのような極上の手触りに癒される。
「痛くない?」
優しい問いに首を振り、これ以上の行為を止めたいと思っているのかいないのか、自分でも分からなくなる。半開きの口からは、指の動きに合わせ熱い吐息が漏れるだけだ。
ぐちゅ、ぐちゅ、と増えた指の間から音がする。樹雨は口を寄せ、唾液を送り込む。充分にほぐれたのを確認して服を脱ぎ捨てると、大して前準備もしていないのに硬度のあるものを当てがった。
「風太、挿れるよ。」
それは気遣いから出た言葉だが、風太は思いっきり赤面した。
「いちいち言うな!ばかっ!」
「ん、ごめんね。」
ぐ、と押し入る。風太の身が若干強張るのを感じて、宥めるように睫毛を濡らす涙を舐めた。なんだかんだで、半獣の姿でも結局は受け入れてくれる。それが嬉しくて、ついつい尻尾が揺れる。
「好き。」
言いながら、肩にすがってくる手のひらに幸せを感じる。この初恋が叶うのなら、樹雨にとってこの生は充分に意味のあるものになる。人とは違う生き物であっても、感じる心は同じなのだ。
「あ、あ、あ、」
床の上で揺れる体。二度目とはいえ、まだ慣れない行為に顔をしかめる。細い指先が背中を撫で、風太の身体を抱き上げた。樹雨の上に跨る格好になり、ずっと深く繋がる。
「ああっ!」
仰け反る喉元、背中が逃れるように後ろへ傾き咄嗟に手をつく。シャツは辛うじて肩に留まり、ネクタイは既に廊下の隅に落ちている。
夢中で揺さ振りに耐える。突き出す格好になった乳首を吸われ、今までにない甘い痺れが走った。
「ああんっ、」
そこからは、樹雨の手により開拓されていく体に為すすべもなく翻弄され、快感に身を震わせた。前回よりも甘く善がる声が、自分の口から出ている事にも気付かないくらいに正気を保てない。散々に鳴き、ようやく解放されたのは二度も中に放たれてからだった。
揺れる尻尾が剥き出しの太腿を撫でている。くすぐったくて、シャツ一枚の風太は身動ぎした。
「…なあ、」
防音完備が売りのアパートだが、玄関付近で騒げば音が漏れるだろう。その事に思い至ったのは、廊下の狭い空間で抱き締められたまま、少しの休息を取ってからだった。
「玄関でとか、もうしないからな!それに鍵を閉めてなかったし、開けたままとか不用心だろう。…あ、そういや今も開いてる。」
風太が肝心な説教内容を思い出した、しかも未だ施錠出来ていない。不意の来客がなくてよかったと、心底思った。
「ああ、ここって鍵が自動で閉まらないんだったね。ごめんね、うっかりしてた。今まで家の鍵、持った事ないんだ。網膜と指紋認証だから。」
「あー…、」
風太の脳内を、ドラマや映画で見るワンシーンが過ぎる。万全なセキュリティ搭載の、無機質なドアを有する豪邸。自分の日常とはかけ離れた住まいが予想された。
「直ぐかけるね、」
樹雨は素早く身を起こし、ガチャリと鍵を施錠しチェーンを下ろす。横たわり見ている、気怠そうな風太の横に屈んだ。
「わっ!!」
言葉と共に、風太の体が浮く。お姫様抱っこなど、大人の男性の身ではなかなか経験出来ない。しかも、自分よりも小柄な相手が楽々と持ち上げたのだ。
「ちょ、下ろせ!」
「だって、きつそうだよ。遠慮しないで、」
樹雨は動揺する風太を抱いたまま廊下を歩き、明かりをつけてリビングの隅にあるベッドスペースへ進んだ。玄関からそこまで大した距離でもない。そっとそっと、壊れ物でも扱うかのように背中から優しく横たえた。
「はい、下ろしたよー。」
ちゅ、とついでに頬にキスされ、触れる柔らかな髪にくすぐったくて眼を細めた。風太にとっては樹雨と暮らすようになってから、今までに培った常識が崩されっぱなしで、この怪力も狼男ゆえならばと思うと複雑だ。
「…なあ、いつもは力を加減して普通の人間と同じようにしてたのか?こんな馬鹿力、気付かなかった。」
「んー…なんて言うか、半獣の姿になってるとリミッターが外れるっていうか、領域が拡大する感じかなぁ。」
「ふうん…。」
その言葉に嘘はないとして、風太にはまだまだ知らない事があるに違いなく、この目の前の存在に底知れない不安を感じる。未知の領域へ踏み込むには、ある程度の予備知識がほしいと思ってしまう。
「どうしたの、浮かない顔。…あ、もしかして怖がってる?大丈夫だよ、力加減は分かってる。風太に怪我させたりしない、本当に大切なんだ。」
そっと風太の手を優しく包み取り、手の甲へ柔らかな唇が触れる。艶やかな長い睫毛が伏せられ、まるで童話の王子様めいて美しい。いや、お姫様のように可憐でもあった…獣耳と尻尾が生えたパンイチ姿である事を除けば。
「はぁ…、これで狼男かぁ。」
悪役には到底見えない。怖がる必要性を感じない。
「ん、信じてくれる?無害で善良な狼男だよ、これからも側に居てもいいでしょ。」
明るく言っているのに、不安の滲む表情と声音。獣耳は前傾に傾き、返事を聞き漏らすまいとしている。その様子に、風太はふっと口元を緩め、優しく目を細めた。そこには愛おしさも混じっている。
「自分で無害で善良って言うとか、…あははっ、」
その笑顔に、樹雨の緊張も緩んだ。
「だって、風太に捨てられたら生きていけない。この幸せを知ったら、もう元には戻れない。」
これは本気だ。この命の役割が雪を助ける為だとしても、あとどのくらいその役が続くのか…。雪から離れて暮らす決断も、それを後押ししてくれた雪の本意も、それらは菊善の望みとはかけ離れている。
「分かった、分かった。捨てたりしないって、それに狼男を拾う物好きは俺くらいのもんだろ。」
価値を知らないその言葉に、樹雨は安堵と微笑みを返した。闇オークションで高値で売れる商品だとは思ってもいない。風太には、まるで縁の無い世界だ。
「よかったぁ。暫くはこの姿だから、追い出されたらどうしようって思った。」
「え…、自分の意思で戻れないのか?」
「うん。」
えへっと笑う。風太は、コンビニのアルバイトがはるか彼方へ遠退くのを感じた。
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