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ラウンジ
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大きな窓から差し込む朝の光は、あまり満足に取れていない睡眠の所為で眩しく感じる。菊嘉は、ホテルのラウンジでぼんやりと目覚めのコーヒーを飲み込む。ソファーに沈む背中は、いつもの覇気が無い。気分転換に、珍しい奴からの朝食の誘いに乗ったが、余計に疲れが増すだけの様な気もする。
「はぁー、」
ため息は深く、自覚のないままに出てくる。両方の目頭にそれぞれの指先を当てて、帰らぬ人の姿を思い浮かべる。後悔は、もうし尽くした。アルバーニの証言もあり、事件に巻き込まれた可能性は低いと思われた。それ故に、跡を追う為に手を尽くすのを躊躇い、大人しく待ち続ける受け身な状態で、ホテルと研究室の往復を繰り返すばかりだ。
何故、いつまでも変わらず側に居ると思い込んでいられたのか。自分の楽天さに、反吐が出そうになる。携帯はホテルの部屋に置き去りにされていたし、自由奔放で危なっかしい兄とは違い、雪には居所を掴む為の策を講じてなかった。いや、講じる必要性を感じない程に、側に居るのを当たり前だと思い込んでいた。
「はぁ…。」
目頭を押さえたまま、どこまでも沈んで行く菊嘉の目の前のテーブルへ、トンッと指先が触れノックした。
『ボス、おはようございます。』
『あ、ああ。…おは…よう。』
ようやく指先を離し、視界をオープンにする。しかし、直ぐにアルバーニの背後に控える柔らかな光の反射に目を奪われた。その淡く、透ける様な髪色に目を見開く。
「!!」
だが彼の期待とは違い、見慣れた白髪ではなかった。よく見れば、身長も雪より低く、そして何より若い。恐らく菊嘉よりも歳下だろう。白いシャツにグレーの薄いニットを重ねた、レッド系の細いパンツ姿、一見して性別不明の少年だ。
『どうしました?…ああ、紹介がまだでしたね。彼はネーヴェ。私の愛しい人です。』
アルバーニが微笑み、後ろにいた少年の肩を引き寄せ紹介する。愛しい人と、唯美主義のアルバーニが恋人に位置付けるのも納得の美貌だ。淡く輝く肩まで揃った金髪、そしてエメラルドの瞳。細い肢体に乗った顔は小さく白く、長い手足のモデル体型だ。そこまで一瞬で観察し、興味を失う。
『…仕事先に、恋人を連れてくるとはな。』
『ネーヴェが、どうしても日本を観光したいと言うからね。それに、秘書の更新もしないつもりでしたから、日本支社の仕事が終われば、休暇を取って自由に観光しようかと思って日本へ呼んだんですが…気が変わりました。セツが居ない今、私まで仕事を辞めるのは痛手でしょう。』
ネーヴェがアルバーニをまじまじと見た。菊嘉に紹介された事も予想外だったが、アルバーニならば直ぐにでも仕事を辞め、ステイツもしくはイタリアに連れて行かれると思っていた。この姿での菊嘉との再会など、心構えも何もない。
『ネーヴェどうかした?緊張してるの?…そうだった、ボスの紹介がまだだったね。彼はキクカ・ウツロ。話の通り、私のボスだよ。優秀な生物学者であり、Mum Inc.の取締役。…さあ挨拶を、』
優しい声音とは違い、肩に触れる手のひらから圧力を感じ、ネーヴェはゆっくりと頷いた。
『…初めまして、』
『どうも、』
目も見ようとしない、素っ気ない返しに落胆してしまうのは、心のどこかで気付いてもらえるかもしれないという期待があったからか。そして、秋吉 雪という人物への菊嘉の思いが有る限り、アルバーニの恋人であるネーヴェを気にかける事もないだろう。
『ボス、彼も朝食に同席しても?』
『勝手にしろ、』
どうでもいいとばかりにコーヒーを飲み、経済誌を読み始める。徹底的に心を打ちのめす現実を見せる、それがアルバーニの目的かとネーヴェは納得した。確かに、精神的なダメージは思ったよりも大きい。常に自分へと向けられてきた愛故の嫉妬や束縛、それらはもう手の届かないところにある。
『君はこっちへ。』
ネーヴェは、満足そうなアルバーニの勧めに従い、彼の隣、菊嘉の斜め前に腰掛けた。
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