アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
再来
-
バスローブ姿の少年は、歩きながら湿った金髪が顔にかかるのを、新しく張り替えた絆創膏に包まれた指で面倒そうに払い、一人がけのソファーの前で足を止めるとボスンと沈んだ。テーブルに置かれた男性用の腕時計にちらりと目をやり時間を確認する。
同じくバスローブ姿で後を追うようにやって来たアルバーニが、タオルをその頭にかけた。
『ほら、乾かさないと風邪をひく。ドライヤーの途中で逃げるなんて、小さな子供みたいだね。』
『あの音好きじゃない。』
秋吉雪と同一人物とは思えない、拗ねた口調と子供じみた言い訳に、アルバーニは苦笑した。ネーヴェ・クラインという少年の性格付けによる、彼なりの演技なのかもしれない。恋人である少年は、自分を俺と言い、言葉も若者らしく砕けている。それはむしろ、アルバーニを喜ばせた。
『そう。なら、タオルで拭いてあげようか。君はよっぽど、私に構われたいらしい。』
『…別に。でもやりたいんならやれば。そっちこそ、俺に触れたいんだろ。』
タオルの下から覗く瞳が、挑発的に見てくる。薄い唇が、口角を上げて笑んだ。
『その、男をたらすテクはどこで覚えたの?子猫ちゃん。』
青い目が細まり、ソファーの背もたれに手をついて屈み込む。
『さあ、ね。でも、ルーカにだけだ。』
『ああ、そうでなくちゃいけない。私以外の男を誘うのは、許さないよ。』
『分かってる。』
嫉妬深そうだし、と続く心の中の言葉はアルバーニの口内へ移す。重なる唇から息が漏れ、ネーヴェはバスローブから進入しそうになっている手を捕まえると、痛みを覚悟して指を絡めた。シャワー浴びたてで、再び脱がされるなどごめんだった。
『指痛いし、髪も冷たくなってきた。』
解けたくちづけの後にそう文句を言えば、やれやれと彼は肩をすくめた。
『わがままだね。』
ふふん、と当然の権利とばかりに頭を預けてやれば、アルバーニの大きな指が案外優しくタオルドライしていく。ネーヴェは、目を閉じてそれを甘受した。昔、Bと名乗っていた頃の再来のように。
もう、誰かの為に自由気ままに振る舞う事を我慢する事はないだろう。彼がネーヴェという、ただの少年である限り。
『ねえ、お腹空いた。今日は仕事休みでしょ。外に出て、何処かのお店で食べたい。ホテルの食事は飽きた。』
アルバーニの手が止まる。その間に逡巡を感じ、ネーヴェは小さく息を吐く。まだ気を許してもらうには時を要するようだ。
『いいけれど、もちろん側を』
『離れない。』
間髪入れずに答える。自由気まま…とは、この状況下では制限付きのものだ。Bの頃の、根無し草のような生活には程遠い。
『ルーカ、大丈夫だよ。それともまた足輪を付けて、この部屋に閉じ込めようとしてた?恋人にその仕打ちは酷いね、やる事やったら用済み?』
『…いや、』
どうやら足輪の出番が間近だったようだ、アルバーニにしては歯切れの悪い返事にわざとタオルを払い退け、大袈裟に眉をしかめる。半眼で唇を尖らせた。
『ふうん。いいよ、足輪でも手錠でもすれば?ついでにカメラも回して、ハメ撮りでも撮影する?いや、既にセックスシーンは撮られてるかな。この部屋に何台か仕掛けてるんでしょ?』
ネーヴェ・クラインには、恥じる程の体面などない。モデルを目指そうが何だろうが、それはあくまでアルバーニが決めた設定にすぎない。AV紛いの映像が流出したところで痛くも痒くも無いし、それが脅しの材料になる事もない。
『今は止めてる、君が嫌がる事はしないよ。』
『へえ。それで、上司の部屋に仕掛けた盗聴器は回収した?そんなにボスに興味津々だなんて、妬けるけど。』
さらりと流しながらも、本当に気になるのはこっちの方だ。アルバーニが眉を上げた、勘付かれた様だが仕方ない。平常心で何でもない体を装う。
『とっくに回収してるさ、彼に興味はない。』
『そ、良かった。じゃあ外食しよう?』
少し傾けた顔に笑みを浮かべ、声を弾ませる。これで断られるなら、今日は外出を諦めるしかない。
『はあ…、参ったね。君の思う通りにしよう。』
アルバーニが、降参の意味を含め頷く。タオルを持つ手を再び動かして、淡い金髪を包んだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
56 / 81