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三者面談
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本日の主題である、兄と風太の交際や同棲については何の反対もなく、このまま日本へ留まるという申し出にも菊嘉は快く応じた。三者面談の様な気分で臨んだ風太は気抜けする。
しかし、緊急議題となった雪の件については何の進展も望めない。三人は、コーヒーとアップルパイの載った小さなテーブルを囲んでいた。
「雪ちゃん、ホテルで会った時には何も言ってなかったのになあ。でも、まあ…出て行く可能性はあるかも。」
失踪した日、アルバーニとの約束前に二人がホテルで会っていたのは菊嘉には初耳だったが、樹雨は行方について何も知らず、その言葉は少なからず彼を落ち込ませた。
「何故!?どうしてそう思うんだ!」
「んー…、」
菊嘉に血相変えて問われ、樹雨は返事に窮した。まさか、死に場所を探しに行ったのかもとは言えない。しかし、それが一番可能性の高い理由に思える。半獣の自分達は死を迎えた時、人か獣か、果たしてどちらの姿をしているのか。
「あの、警察とかには知らせたんですか?」
風太が控え目に言葉を挟む。兄弟のやり取りを黙って見守っていたが、人が一人居なくなったとは只事とは言えない。
「一応は。だが事件性もなく、生活能力のある大人が自分の意思で何処かへ行ったとしても、何の捜査対象にもなりはしない。」
「あ…、そうですよね。秘書の方の証言もあるし…。」
頷き、風太はこの件は空露家の問題なのだと再び口を噤んだ。複雑な家庭事情があるとして、この樹雨に可能性を示唆されるとあればそれは雪本人の意思を尊重するべきだ。
『ねえ、そんなに雪ちゃんが大切なら菊ちゃんは変わらなきゃ。』
『え、』
突然、厳しい口調の英語で言われ、ポカンと兄を見る。今まで、樹雨は二人の問題について何も言った事はなかったのだ。
『ヒントをあげる。別荘の地下室の鍵を探して。雪ちゃんが持ってたんだ。荷物が残ってるなら、ホテルにあるかも。』
『でも、もう…遅い。僕の何かが変われるとして、それを秋吉へ報せる術なんて何もない!』
頭を抱え、菊嘉が吐き捨てる。しかし、地下室のワードは最近耳にしていた。日本支社へ訪問した初日の夜に、彼が資料を取りに行ったのは地下室だった。
『ふうん…そう思うなら何もしないで待つといいよ。このまま、何も知らないままでいれば、それは雪ちゃんの望み通りになるんだから。』
英会話について行けず、風太はコーヒーを啜った。上目で隣の樹雨と、目の前に座る菊嘉を見る。何だか一方的に兄に責められている雰囲気だが、それも会話が理解出来ずに定かではない。
『兄さん、一体何を知ってるんだ…。いや、いい。鍵を探す。僕がやるべき事はそれなんだろう。』
『うん。』
優しく頷き、兄らしくテーブル越しに手を伸ばす。まるで似たところのない弟の黒髪を撫でた。
樹雨にもこれが正しい選択なのかは分からない。が、菊嘉には知る権利がある。雪の罪と、自分の存在理由を。
『ルーカ!ねえ、ここは何の店?何て書いてあんの?』
読めるだろうに、ネーヴェはアルバーニの服を引き、看板を指差して無邪気に尋ねる。今の彼は日本語が分からない設定なのだから仕方ない。
『蕎麦屋…だね。ソバは知ってる?ヌードルだよ。』
『へえ…、食べてみたい。ここにしよう。』
特筆すべきものは何もない駅で降り、適当にぶらぶら歩いて目に付いた店をあちこち見、ようやく昼食が決まった。
『いいけど、アレルギーには注意して。』
『うん。肉と魚を食べなけりゃ大丈夫。』
遅い昼食時間、空いた店内に入り、案内された席へ二人は掛けた。早速、ネーヴェは日本語のみで書かれたメニューを広げ、物珍しそうに目で追い、アルバーニへ問いかけた。
『ヌードルだけ食べたい。味が濃いの苦手なんだ。』
『ああ…、じゃあざる蕎麦はどうかな。麺とツユが別々になっているから、つけて食べなくてもいいしね。』
『うん。じゃあ、それを注文して。』
初めからざる蕎麦を注文したかったネーヴェは、そう言い置いて席を立つ。咄嗟に、アルバーニはその細い手首を掴んだ。
『どこへ行く?』
『トイレ。』
アルバーニが席を立とうとしたので、ネーヴェは肩をすくめた。
『まさか、トイレに同行するつもり?あのトイレ、どう見ても一人用の個室だろ?』
奥にある、女性と男性の絵柄の付いた扉は小さく、男女の区別もない。そもそも、この店自体が地元密着型の小さな店舗だ。物言いたげなアルバーニへ、ネーヴェは顔を寄せた。
『スカトロの趣味ないんだ、ごめんね?』
そんな話じゃないと、青い目が細まる。
『窓から、』
『逃げないよ。はぁ…、そんなに何が心配なんだか。じゃあ、一緒に来て窓の確認でもしたら?もし俺が通れない程小さい窓だったら席に戻って。』
『そうしよう。』
ようやく納得した相手に手首を握られたまま、少年は呆れた顔で後に続いた。
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