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レイニー
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ガチャ、と玄関のロックが開き家主の帰宅音に敏感に反応する。耳を澄ました。
立派な門構えの割に、芝生が伸び放題の広い敷地の中に立つ屋敷は古いが、当然の様に広く、研究に使う為に改築した別棟まである。先祖から伝わる建物と家財は昔の栄華を留めたまま、さしてアンティークに興味のない、今は唯一の子孫が手入れを怠っている。
ただいま、レイニー!
呼ばれて、主に過ごすリビングに据えられた、お気に入りの年代物のソファーから腰を上げて伸びをする。それから、二人分の足音が聞こえる廊下へ返事を返した。
ニャアァーン。
半開きの扉が廊下側から開けられ、家主が顔を覗かせて笑顔を見せた。
今日は君に会わせたい人がいるんだ。こちらはベルーガ、仕事を手伝って貰ってる。で、このレディが話してた同居人のレイニー。雨の日に、同じ樹の下で雨宿りしたのがきっかけでうちに招待したんだ。
猫…だったんだ。
少しびっくりした顔で家主の後ろから部屋へ入り遠巻きに眺める男性に、レイニーは行儀よく前足を揃えて挨拶した。
なあ、怯えてない?
大丈夫じゃないか。嫌なら逃げるだろうから。
そう言う菊善へ、ベルーガは不安そうな顔をする。猫は逃げずにその場に居るが、自分の正体を本能的に気付かれそうだと思った。
本当に?彼女が嫌がるなら、ここには住めない。同居人が猫だって、先に言ってくれたらよかったのに。
その言葉に、菊善は困った様に顔を曇らせる。今日は、恋人の紹介とこれからの同棲を同居人へ伝える為の顔合わせだったのだ。
参ったな…。レイニー、彼は僕の恋人なんだ。どうか、彼と仲良くしてくれ。頼むよ。
猫へ拝む。あの出会いを経て、Bという通り名から本名を教えて貰う事から始まり、この家に連れて来るまでの二人の道のりは短くも、長いものだったのだ。衝撃な事に、宿無しだった彼を必死に口説き、ようやく同棲を承諾して貰いこの日を迎えた。これから先に、完成した化粧品のイメージモデルの仕事も控えている。私的にも仕事的にも、身の安全を確保したかった。
言葉が通じたのか、彼女はガラス玉の様に美しい紅茶色の瞳を菊善へ向けて短く鳴く。
大丈夫だってさ。
…そう?
ベルーガは驚かせない様にゆっくり腰を屈めると手を伸ばし、匂いを嗅ぐ間じっと待つ。鼻が離れるのを待ち、クリーム地に薄い茶縞柄の浮かぶ小さな額に触れた。彼女は目を細めて、その指先が毛の上を滑るのを許す。
有難う、レイニー。俺はベルーガ・クライン、これから宜しく。
礼を述べ、指を離す。それから顔を近付けて、菊善には届かない小声で囁く。
まだ狼男だってことは内緒にしてて。
そのお願いに、レイニーは黙ったまま訳知り顔ですましている。
なんか言った?
不思議そうにする菊善へ、ベルーガは紫の瞳を優しく和ませて艶やかな唇へ人差し指を軽く当てた。
彼女と俺の秘密の話。
なんだ、すっかり仲良しじゃないか。
肩をすくめる菊善へ、レイニーが餌を要求する鳴き声をあげた。
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