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「また、冬が来ましたね」
布団から障子に手を伸ばすと冷たい冬の空気を感じた。
「今回は風邪が長引いています。決して無理をされないように」
「はい」
声の方に向き直ると、優しい眼差しが向けられ表情が緩む。
「朝食をお持ちします」
村井さんは最近悪くしてしまった足を庇うようにして立ち上がる。
「村井さんにはご迷惑ばかりかけてしまって、本当にごめんなさい」
「何を仰るんですか!迷惑などかけられた覚えはありません。渚様はそのような事をお気になさらないでください」
困った様な、でも少し怒った様な顔で僕を咎めた村井さんは、また微笑むと部屋を出て行った。
村井さんは、ずっと僕の世話役として一緒に居てくれる。
「…ありがとう」
村井さんがいなければ僕はどうなっていたか分からない。感謝してもしきれない。
一人ならきっともう、僕は死んでしまっていた。
本来、村井さんが仕えるべきなのは僕ではない。
ここで暮らす前に働いていた大きなお屋敷の主人が、村井さんの本当の主人だ。
僕の世話を村井さんに命じたのもその方だ。
そして、僕はその方を愛している。
もう何年も前からその方だけを想い、消えそうになる希望を抱き締めて、その方を待っている。
ある日、由緒ある一族のご子息が仕事の都合でこの街にいらっしゃる事になった。
一条様という方で大そう美しい方だと皆が浮かれていた。
そして街を歩いていた僕は、騒ぐ人達の先にその一条様を偶然見掛け、同性とはいえどその噂通りの美しい姿に思わず見入ってしまっていた。
すると何かを感じたのか、視線を動かした一条様とふと目が合い、僕に微笑んでくださったのだ。
その出来事に動揺し、壊れてしまいそうな程の速さで動き出した心臓を思わず押さえた。
同僚の方だろうか、その人が促し歩き出すまで僕と視線が外れることはなかった。
これは何なのだろうか、そして何度も微笑みを浮かべた一条様の顔が脳裏に浮かぶ。
経験した事のない感情が胸いっぱいに広がる。
そしてこれが恋なのだと気付いた時には、僕は一条様に心の全てを囚われてしまっていた。
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