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暫く滞在するという話を聞き、一目もう一度会いたいと、一条様が居るであろう場所の前を何度も通ったけれど、会う事は出来なかった。
次第に冷静になった僕は、相手は男性な上に立場のある人だ、ひっそりと想うしか出来ないのだと気付き、それを自分に言い聞かせもうその場所へ近付く事を止めた。
でもそれから数日が経った日、僕に一条様からの手紙が届いた。
手紙には、自分の身元についてや手紙を出した理由が書かれていた。
僕はその手紙を読んで声も出せないくらいに驚いた。
「そんな、まさか…」
一条様は日付と時刻も手紙に書き、僕に会いたいと言っている。
僕はその手紙を胸に抱きしめ、その日、必ず会えると信じて待った。
「こんな時間に申し訳ありません」
片手に帽子とコートを手にしたその人は、柔らかな笑みを浮かべながらもどこか申し訳なさそうに見えた。
「君をずっと探していました。やっと会えた…」
手紙は読んでもらえただろうかと問いかけられ、僕の顔は真っ赤になる。
すると一条様は僕の手をそっと握り、その手の甲に唇を寄せた。
その行動に驚く僕に、あの一瞬で君に恋をしたのだと一条様は言った。
手紙に書いてあったことと同じ事を言われ、そんな夢みたいな事があるわけがない、僕は大きく首を振った。
「君も同じ気持ちだと感じたのだが、私の思い上がりだっただろうか」
僕は益々驚き後退るけれど、手を引かれ優しく抱き締められた。
「もしそうなら、これを最後にもう二度と近付かないと約束します」
逞しい胸に縋り、耐えきれなくなった僕は思わず好きだと告げてしまった。
「私も、好きです。ああ、やっと夢ではない本物の君を抱き締められた」
感じる鼓動が、耳元で聞こえる声が、温もりが、これは夢ではないと教えてくれた。
次の日から、夜には真っ暗になる山際の粗末な僕の家で密かに逢瀬を重ね、二人だけの時間を過ごすようになった。
一緒にいられる僅かな時間を大切にし、お互いを愛し、きっとこの先こんなにも幸せだと思えることはないだろうと思った。
いつか、一条様はこの街からいなくなってしまう。
分かっていたけれど、それでも今だけは与えられる愛に溺れていたいと思った。
そして、その時は来た。
一条様が帰ってしまう前日、家族もおらず体が弱いせいでまともな仕事も家も無かった僕に、きちんとした仕事と今の家の近くに新しい家を用意してくれた。
「必ず会いに来ます。手紙も出します」
終わりじゃない、一条様はそう言っているのだ。
本当は、嫌だ、行かないでと縋りたい気持ちをぐっと堪えていた僕は、喜びに心を震わせた。
僕達は今だけは寂しさを感じないようにときつく抱き締め合い、新しい家で最後の夜を共に過ごした。
一条様が行ってしまってからも、お屋敷からは離れたこの家に月に一度は会いに来てくれて、来られない時には手紙をくれた。味わった事のない幸福な毎日だった。
でもその毎日はある日突然終わってしまった。
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