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手紙をしまった時、丁度村井さんが薬を持って部屋へと入って来た。
僕は体を起こしその薬を飲み干す。
「ゆっくり休んで下さい」
「村井さんも、体を休めて下さい」
村井さんは礼を言いながら頷くと僕から湯呑を受け取った。
いつの頃からか、村井さんは一条様の話をしなくなった。僕を気遣っての事だという事は分かっている。
だから僕は月に一度だけ村井さんにいつも同じ事を聞く。
「一条様は、お元気ですか?」
それに村井さんはいつも同じ答えを返す。
「はい。お元気です」
そして僕は笑って頷く。
もうそれだけで十分だと思えた。僕は終わりのない夢を見ているのだ。このまま死んでしまっても僕はきっと幸せだろう。
「それと、渚様のお仕事の事についてなのですが…」
僕は俯き布団を握り締める。
「やはり、駄目でしたか…?」
村井さんは黙って頷いた。
「はい、新しい方を雇う事になったそうです。向こうの方も渚様に続けて頂きたかったそうで、とても残念だと、あと申し訳ないとも仰ってしました」
僕は慌てて首を振る。
「皆さんにご迷惑を掛けてしまい、謝らなければならないのは僕の方です。一条様が紹介して下さったお仕事なのに申し訳ない事を。一条様にも一言お詫びを…」
そこまで言って思わず手で口を押えた。
村井さんは小さく息を吐いた。
「…酷な事を申し上げます。ですが、もうそのようなお顔を見たくないのです。どうかご理解下さい」
僕は目を見開き村井さんの言葉を待つ。
嫌な汗が額に滲んだ。
「旦那様の事についてです。私がこちらへ来て暫くして、旦那様のご婚約が決まりました。そして、それから間もなく、ご結婚されました」
頭が真っ白になった。何も考える事が出来ず、口からはよく分からない声が漏れる。
村井さんは僕の背中を撫で、申し訳ありません、そう言ってばかりだった。
「渚様は、私の亡くなった息子によく似ています。病弱で、でも心は強く優しい子でした。だから望む様にしてさしあげたかった。ですが、食も細くなり、日に日に弱って行く姿を見ていると、このまま渚様まで失ってしまうのかと…」
僕はもう、夢を見る事は出来ない。
夢は、終わってしまった。
「…うっ、あ、うわああああっ」
村井さんの上等な服に縋り付き、大声で泣き喚く。
終わらせないで欲しかった。幻でも傍に居てくれたらそれで良かった。
だってほら、現実はこんなにも辛く悲しい。
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