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村井さんは僕に話をする前に、退職届を出していた。
一条様に、結婚についてくれぐれも僕には漏らさないようにと口止めされていたのだと知った。
いつか必ず迎えに行くからと。
でも村井さんには分かっていた。
そんな事出来はしないと。
僕の様子を見ていて、もう限界だと悟り、村井さんは信用も職も失ってまで僕を救おうとしてくれた。
「…む、らいさん、ごめん、なさい」
もう夢から覚めなければならない。
でも、一つだけ許されるなら
「想う、だけなら、許して、もらえますか…?」
村井さんは背中を優しくあやすように叩きながらはい、と言ってくれた。
「その想いは、渚様のものです。大切になさって下さい」
僕だけのものだというのなら、この想いだけは守りたい。
涙で濡れ、酷い顔のまま村井さんを見上げる。
「手紙を、書いても、良いですか?」
悲しそうに微笑むその顔に、僕も震える唇で笑みを返した。
一条様
お体を大切になさって下さい。
どうかお幸せに。
渚、名前を呼んでくれるその声と、優しい笑顔が大好きだった。
二人で縁側に並んで観た月は真ん丸でとても綺麗だった。
眠る姿を見る度、このまま夜が明けないようにと、何度も願った。
見つめる瞳、薄く熱っぽい唇、僕に優しく触れる大きな手、その全てが今も愛おしい。
例え僕と過ごした時間をもう憶えていなくても、僕だけは忘れない。
ずっと大切にしまっておく。
だからどうか幸せでいて欲しい。
僕は貴方を想いながら、それだけを祈り続ける。
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