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また冷える季節がやって来る。
「渚さん、お戻り下さい」
「…わっ!」
畑で収穫しておいた野菜を保存食にする作業に夢中になっていた僕は、少し怒り気味で背後に立つ村井さんに全く気付かなかった。
「何度もお呼びしたのですよ。それとこれも何度も言いましたが、この土地に来て体の調子が良いとはいえ、無理をされないように。お体を冷やし、風邪を引かれてしまいます」
「…ごめんなさい」
親に心配されるというのはこんな感覚なのだろうか、嬉しくて少しむず痒い。
村井さんには、この町へ来て暫くしてからお互いの妥協出来るところでと話し、渚さんと呼んでもらう事になった。
「ですが、とても上手に作られましたね。またご近所にお配りしましょう」
「はい!」
僕は立ち上がり、軽く両手を叩く。
「村井さん、明日は病院ですよね?一緒に行きます」
「一人でも大丈夫ですよ」
「駄目です。一緒に行くんです」
村井さんは年齢の事や、ここへ来たばかりの頃はまだ体が弱いままだった僕の分も畑仕事をし、無理がたたり少し足を悪くしてしまった。
村井さんは可笑しそうに笑って頷いた。
僕達はあの街を出て、村井さんの生まれた町へと移った。
古い家と畑しかないなんて言っていたけれど、どちらもとても立派だった。
それに海も山も近く、空気も澄んでいる。
もう僕の世話などする必要はないと言ったけれど、絶対に連れて行くと村井さんは譲らなかった。
「迷惑などと思う事はお止め下さい」
否とはもう言える雰囲気ではなく、僕は村井さんにお礼を言いこの町へと一緒に来た。
連れて来てくれた村井さんには感謝しかない。
あの方はお元気だろうか、幸せだろうか、毎日考えては余計な心配だと下を向く。
今も、想う心は消えていない。
これから先もずっと、色褪せる事はない。
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