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僕と並び歩く一条様の姿を横目で何度も確認する。
相変わらず素敵な方だ、秘めていた想いが鼓動を打ち始める。でも、もう触れたくても触れられない人だ、あの幸せな記憶も、この想いも、今はもう僕だけのものになってしまった。
「疲れていませんか?」
「はい、大丈夫です…」
一条様の記憶の中の僕は、この距離を歩くだけでふらついてしまうような弱いままだろう。
今は畑仕事もしていると知ったら驚かれるだろうか。
どうして僕に会いに来てくださったのか、その理由は分からない。
僕を懐かしんでくださっての事だろうか。
今はもうしまったままになっている手紙を思い出す。手紙を読む事はやめた。
あれは僕の夢そのものだからだ。
でも、今も一条様を想う気持ちに変わりはない。
何度も込み上げそうになるものを必死に我慢して、長い間続く沈黙の中、僕達はただ歩き続けた。
「お帰りなさいませ。一条様もようこそいらっしゃいました」
家に戻ると、村井さんは全てを知っていたかのようにそう言った。
それにも驚く僕は、ある事に気付きはっとなった。
「休んでいてくださいとお願いしたのに!」
目ざとく村井さんの手の汚れに気付いた僕は、直ぐに村井さんに駆け寄った。
「少し庭の手入れをしていただけですよ」
僕が少し怒った顔で村井さんをじっと見つめると、困ったように笑った。
「さあ一条様、どうぞお上がりください。長旅でお疲れでしょう」
僕ははっとなり振り返ると、驚いた顔で僕を見る一条様と目が合った。
「あ、しっ、失礼しました!」
恥ずかしくなり頭を下げると、一条様はどこか寂しげな笑みを浮かべた。
「すみません、籠も持たせたままで…」
その時、籠を持って貰っていた事も思い出し、慌ててその籠を受け取ろうとしたけれど、一条様は構わないからとその籠を持ったまま中へと入った。
村井さんと一条様の後ろ姿を僕も急いで追い掛けた。
客間に三人で座る。
お茶とお菓子を用意して僕が戻った時から、どこか空気がおかしいと感じていた。
村井さんはいつもの通り穏やかな表情で座っているのだけれど、一条様はどこか落ち着かない様子だった。
「それでは、私は部屋に戻らせていただきます」
「あ、あの」
僕は思わず隣りに座っていた村井さんの服の裾に縋り付く。
「渚さん…」
僕の手をそっと外させ、笑顔で頷く村井さんを困惑したまま見送る。
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