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はじまる恋
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あの日、俺は辞めようとする阿川を引き留めた。
どうしてアイツを引き留めたのかもわからない。
そしてそれが「愛」か「恋」かも今だにハッキリとしていない自分がいた。
今まで嫌いだった相手にいきなり好きだと言われて、それを素直に受けとめることは難しいことだ。それに相手は同じ同性だ。
今まで自分はずっとノンケだったからそのハードルを飛び越えるには、俺には高すぎる。それに勇気がいることだ。なのにアイツは、そんな俺が好きだと言う。
好きだと告白されても困る。なのに俺は、アイツの手を離そうとはしなかった。いや、離せなかった。
あの手を離したら、もう二度と会えないような気がしたんだ……。
だから俺はアイツの手を離さなかった。
気持ちの整理も出来ないままアイツを引き留めた。
本当は手を離してしまえば楽なのに、俺はアイツと向き合うことを選んだ。それが困難な道のりでも、俺はアイツから逃げないと決めたんだ。
確かに俺はアイツに酷いことされた。今でもたまに思い出すと腹が立つ。だけどそんな奴だけど、根は良い奴だと俺は知っている。だからアイツを許す。許さないと二人前には進めないと思った。
許すことで自分のこの思いが救われるなら、俺はアイツを許して、自分を許す。そしてそこからこの気持ちが何なのかを知りたいと俺は思ったーー。
が……!
「――葛城さん?」
「あっ、阿川っ……お前……!」
「はい?何ですか?」
「ッ……!」
『お前いい加減にしろーーっ!!』
その瞬間、葛城は昼間の食堂で大きな声を出した。その大きな声に周りは一斉にシンと静まり返ったのだった。いきなり大声で怒鳴られると、阿川は直ぐに言い返した。
「も~、ダメですよ葛城さん。みんながいる食堂でそんな大声出しちゃっ。あっ、でもベッドの上なら声出しても大丈夫ですよ?」
『ぶっ!!』
「うちは防音なので、いくら声を出しても近所には聞こえませんから安心して下さいーー!」
『ゲフォゲフォ……!』
「大丈夫ですか~~?」
葛城は食べていたラーメンの麺を口から吹き出すとテーブルの前で苦しそうに噎せたのだった。阿川は椅子から立ち上がると、彼の背中を後ろから優しく擦ってあげた。
「俺、変なこと言いましたか?」
「阿川お前ふざけるな……!人が飯を食ってる時に、いきなり変なことを言うなっ……!」
葛城はそう言って噎せながら怒鳴ったのだった。
だけどその顔は少し赤かった。阿川はニヤリと笑うと、そこで意地悪を言った。
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