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「あれ?どうしたの」
撮影の合間、休んでいた控室のドアが遠慮気味にノックされて開けてみたら、両手に荷物を抱えた男の子が俯き加減に立っていた。
うーん、この子、誰だっけ?
確か、スタッフの中にいたような・・・
「次の撮影用の衣装です。サイズの調整が終わりましたので、着替えお願いします」
俯いたままの彼の頂を見ながら首を捻る俺に、彼は腕に抱えていたものを差し出した。
「あ、ああ!そっか、君、香代さんとこのアシスタント君だ」
差し出されたもので彼の正体がわかった俺は、スッキリ感で思わず大きな声を出してしまった。それに一瞬、ピクッと肩を揺らした彼は小さく遠慮気味に『はい』と頷いた。
あ・・・驚かしちゃったな。
見た目からして、大人しそうな“ザ、小動物”って感じだし、大きい声とか音とか苦手なのか。
「あはは、ごめんね。大きな声出して。驚かしちゃったね・・・えぇっと・・・」
「西嶋・・・琉聖です。スタイリストの香代さんのアシスタントをしています・・・僕が勝手に驚いただけなので、保科さんは悪くありません。すみません」
申し訳ないなと思って、苦笑紛れに謝ると彼、琉聖くんは顔を上げずにちょっと硬い声で自己紹介してくれて逆に謝ってくれた。けど、何でだろう。罪悪感が湧いてくるのは。
「いや、ホントごめんね。次の衣装ね、了解です。確かに受け取りました」
その罪悪感を誤魔化すように軽く、明るく声をかけて琉聖くんが持っていた衣装を受け取った。
「よろしくお願いします・・・あと、それから・・・これ」
俺が受け取った衣装の上に琉聖くんが鼈甲色した小さなものを三つ乗せた。俯いたままの遠慮気味な態度でそっと乗せられたそれは、飴?
「ん?飴、だね」
「・・・はい。蜂蜜レモン味ですので・・・喉にいいと思います」
「え?」
琉聖くんの答えにびっくりして、俺は自分よりずっと下にある琉聖くんの伏せられた顔をまじまじと見た。琉聖くんは最初からずっと変わらない表情をしていて、彼の心の内を読み取ることはできない。だけどあんまり俺がじっと見ているからか、彼の白い頬がほんのわずかだけ赤くなった気がした。
「さっきスタジオで喉を触って気にされていたので、痛いのかなと思って・・・でも勘違いだったらすみません!」
ずっと小さな声でボソボソ話していた琉聖くんが今日一番の大きな声でそんなことを言うから、俺は内心の驚きをよそに思わずプッと噴出してしまった。
だって何だか、必死で可愛いんだ。
そんなに一生懸命になるほどのことじゃないのに、ほんのわずかだった頬の赤みがパッと見でわかるほどの色に変えて、ギュッと目なんか瞑っちゃってさ。
君はどうしてそんなに一生懸命なの?
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