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ジョーの衣装を持った琉聖くんが行く場所はスタイリストさんが使ってる控室だと踏んで、俺はその部屋のドアをノックもせずに勢いよく開けた。
思った通り部屋の中には琉聖くんがいて、いきなり飛び込んできた俺に驚いて大きく目を瞠いている。その目が赤くなっていて、やっぱり泣いていたんだと思ったら、堪らなくなって部屋に飛び込んだ勢いのまま彼に近付いて腕の中に抱き締めていた。
「ごめん。傷つけたいわけじゃないんだ。こんな風に泣かせたいわけじゃない。もう君を泣かせるようなことしないから、笑ってよ。他の誰かにじゃなく、俺にだけ。君の笑顔を俺のモノにさせて」
ギュッと抱き締めて、溢れてくる言葉をそのまま口にした。
嘘偽りのない俺の本音。
琉聖くんの傷ついた涙は見たくない。見たいのは君の笑顔。他の誰にも譲りたくない、俺のモノだけにしたい君の笑顔だ。
「・・・・・・な、んで」
突然の俺の行動と言葉にただじっとしながらも、動揺が隠せない琉聖くんは俺の腕の中で小さく涙声で呟いた。
困惑して当然だ。それでも離してあげることができない俺は、琉聖くんの背中に回した腕に力を込めて、更に強く抱き寄せた。
「君が好きだ。笑顔だけじゃなくて、君の全部を俺のモノにしたい」
「――――っ、う、そ」
「嘘じゃない!」
「だ・・・だって、あなたは・・・あなたが好きなのは・・立花くんじゃ・・・」
「俺が好きなのは琉聖くんだ。誤解させてごめん。でも信じてほしい。今俺が好きなのは、欲しいと思うのは琉聖くん、君だけだ」
「・・・・・・」
誤解させた自分が悪いのはわかっているけど、俺の気持ちを否定されるのが辛くて必死に言葉を重ねた。こんなに必死に分かって欲しい、信じてほしいと思うことなんて初めてで、どうしたら伝わるのかわからない。でも諦めたくなくて、抱き締めたまま琉聖くんの顔を想いを込めてじっと見つめた。
琉聖くんの瞳から涙が零れ落ちる。その表情はまだ複雑そうで、彼の心の中の葛藤を映し出していた。
「琉聖くん、君が好きだよ」
「・・・っ・・ぅ、ひくっ・・・うぅ・・・」
本気で泣き出してしまった琉聖くんを抱き締めたまま、彼の背中をそっと何度も撫でる。
その涙は悲しい涙?それとも・・・嬉し涙ならいいのに。
勝手な俺のことを君は今も想ってくれているのかな・・・
「琉聖くん・・・俺のことどう思ってくれてる?」
しばらくして落ち着いてきた琉聖くんに彼の想いをどうしてもその口から聞きたくて、催促するように訊ねた。情けなくも声が少し震えてしまったのは、俺の不安の表れだ。
「・・・わかって、いるんでしょう?」
僕の腕の中に納まったまま、琉聖くんは小さく呟くように言った。
その言葉は僕の都合のいいように受け取っていいの?
でも・・・たとえそうだとしても、やっぱり俺は君の口から君の声でその言葉が欲しいんだ。
「わからないよ・・・言ってくれなきゃ、わからない」
「・・・・・・」
我儘を言う子供みたいな言い方をする俺に腕の中の琉聖くんは無言になってしまった。それが怖くて、琉聖くんの表情を確かめたくて彼の顔を覗くと、琉聖くんは涙に濡れた瞳で俺を見上げて、とても綺麗な笑顔を浮かべた。
「僕も・・・あなたが好きです」
「――――琉聖くんっ」
やっと聞けた俺の欲しかった言葉。
今までいろんな人から同じ言葉を聞いてきたけれど、それはまったく違う響きに聞こえた。こんなに心も体も震えるほど、歓喜に満ちた言葉を俺は知らない。
他の誰でもなく、琉聖くんが告げてくれた言葉だから。俺が本気で好きになった人からもらう言葉だから、こんなにも特別でこんなにも嬉しいんだ。
俺がずっと欲しかったのはこれだったんだと、やっとわかった。
俺を想ってくれる誰かが欲しかった。
でもそれは誰でもいいんじゃなくて、俺が心から欲しいと思う人だったんだ。
俺がずっと渇望していたものが今、腕の中にある。
この歓喜をどう伝えたらいいのかわからなくて、俺はただ強く琉聖くんを抱き締めた。
そんな俺を初めて琉聖くんの腕が抱き締め返してくれた。
「あなたが好きです」
そっと大切な言葉を告げるように琉聖くんが俺の胸に頬を寄せてもう一度小さく呟いた。
「うん、俺も大好きだよ。琉聖くんが誰よりも好きだ」
琉聖くんの瞳を見つめて、微笑む俺を彼も笑顔で見つめ返してくれて。
キラキラ光る涙が彼の頬に一筋零れた。
こんなに綺麗な笑顔も涙も今まで見たことがなくて、その涙を掬うように唇を寄せると琉聖くんは途端に真っ赤になって俺の腕の中で暴れ出した。
その慌てぶりがやっぱりうさぎが跳ねるみたいに可愛らしくて、愛しくて堪らなくなる。
自然と緩む表情を隠しもせずに、俺は慌てる琉聖くんを閉じ込めるように抱き締めて、彼の唇に軽くリップ音を立ててキスをした。
「――――っ」
「琉聖くんは世界一可愛い俺のうさぎだね」
湯気が出るんじゃないかってくらい真っ赤に染まって目を丸くさせた琉聖くんを更に抱き締めて、俺は声を上げて幸せな笑い声を響かせた。
――おしまい――
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