アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
gray-4
-
赤江一星は、資料室でファイルを開いていた。
今日もこの世は、平和です。そう言ってみたいけど、世の中は荒れていた。強盗、薬物、飲酒、事故、虐待、自殺ー。殺害などは滅多にない。自分がこの警察署の生活安全課に配置されてから、殺害の案件を調査したことはなかった。
ファイルを目当てのものがでてきた。
『女性飛び降り自殺ー幼い我が子と無理心中か』
11月23日の未明に起きた事件だ。若い女性がビルの上から転落した。現場に駆けつけると、屋上の上に某然とする児童がいたらしい。彼に怪我はなかった。無理心中をしようとした母親の自殺とみな考えた。しかし、当時その事件を担当していた上司は、自殺ではないと疑ったらしい。
なぜなら、その子供は保護されたとき、こう言ったそうだ。
「僕が、母さんを殺しました」
その言葉は、目の前で母が飛び降りた精神的ショックによる虚言だと言いだれも信用しなかった。尚更幼い子供だ。突き落とすような力もない。
けれど、転落後発見された女性の落ちる寸前にビルの配管を片手で掴む形跡があった。しかし、それは誰かに剥がされたのだろう、不自然に指紋がついていた。
結局、この事件は、不幸な家庭に起きた自殺として片付けられた。
当時交番勤務の俺の上司は、初めて勤務した自分にこの事件を語ってくれた。
唯一、疑問の残る事件だったと。真相が知りたいと言った上司は、2年前に事故で亡くなってしまったが。
ファイルの資料には、女性は月島葵とあり、その女性の夫は 月島 慎司という。そして、その子供は、月島 きいろと記されていた。
夫婦仲は、悪くなかったそうだ。近所の人の聞き込みによると絵に描いたような素敵な家庭で、奥さんは美しく聡明そうだったと。夫は、優しく真面目で銀行に勤め、仕事熱心だと。そして、子供は、母親によく似た天使のような可愛いらしい容姿だったとあった。
自分もこの目で見たが、彼は芸能人のように綺麗だった。月島きいろといった珍しい名前の子は彼しかいないだろう。少し不躾だったが、家族の有無を聞いた時、彼はいると答えた。上手いこと核心をつけなかった。
もうひとつ気になることがあった。
みどりという青年だ。彼は、きいろくんが親父に組み敷かれているのを見たとき、表情が一変した。彼はきいろくんにひどく依存しているのでは、とそう感じた。狂気のようだった。
胸がざわざわする。別件で自分の調査として調べようと決意した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
90 / 329