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Killed:Ⅱ
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君を失ったことで無くしたもの
*
芸能界喰種調査から一年
未だに世間はそれに関心を持ったままだ。
そして、俺『福山潤』は声優という職業を辞めた。いや、辞めたというのはおかしいか。正しくは兼業することにしたのだ。
俺は一年かけて『喰種捜査官』になった。その昔、アカデミーに通っていたことがあった。運動が好きで、そしてヒーローが好きだった。捜査官になれば紛うことなくヒーローになれると思っていた。
「失礼します、本日より森川班に配属されました福山です」
「ようこそ、班長の森川智之だ」
「副班長の神谷浩史です」
扉を開ければそこには今までさして変わらない世界が広がっていた。いや、正確には今までとは180°通り越して360°回って一回転ぐらい違う世界が広がっているのだ。
「よろしくね、福山二等」
今まで共に声優として働いてきた彼らは捜査官として潜入捜査していた。それだけの事だった。もちろん、今でも彼らは自分同様声優業を務めているしなんら変わりはない。
ここにいる森川や神谷だけではなく何十人という声優たちが喰種捜査官だったのだ。無論、本業として声優活動だけをしているものももちろんいるし今回の件で捜査官になった人もいる。自分のように。
「まさか、潤が喰種捜査官になるとはね」
「まあ、肉体派の潤にはもってこいだね」
そう話を始めた二人の後ろからやって来たのは自分と同じ事務所の寺島だった。彼は嬉しそうに自分に話しかける。彼もまた今回の調査で傷ついた一人だった。
「お久しぶりです、潤さん」
「あぁ、よろしく頼む。寺島三等」
彼は自分と同時期に喰種捜査官となったうちの一人。だが、彼はアカデミーに所属していた過去は無いため三等捜査官から。森川の推薦によって喰種対策教育所に入り捜査官の道に踏み入れた。
「失礼する。新しい捜査官は全員揃っただろうか」
突然部屋に入ってきたのはあの日自分たちの日常を壊した彼女だった。いや、別に彼女に全くもって非がないのだが。
「はい」
「では、会議室3に11時に集合してくれ」
それだけ言うと、部屋を出て行ってしまう。何人もの部下を引き連れ闊歩する彼女には正に勇ましいという言葉がぴったりだ。正義という言葉を背負っているような背中にきっと誰しもが付いて行きたくなるのだろう。
「まあ、皆顔見知りだと思うが一応のため紹介しておく」
森川が説明をし始めたのは初歩の初歩。捜査官であるならば当たり前のように知っておかなければいかないことばかりだ、
ここは喰種対策局 CCG。そして、その中でも細かく分類される。対策Ⅰ課 戦闘部隊 の中で自分たちは森川班となる。
メンバーは特等が二名、上等は一名、一等は一名、二等が一名、三等が一名の計六名。
「この顔ぶれに命を預けることになる。きっちり信頼できるようにしておけ」
森川はそういうと全員連れて会議室3へと向かった。すれ違う捜査官の中にはテレビで報道陣の前に出ており見たことのある顔もいた。
「失礼する。森川だ」
「そこに座ってくれ」
それが最初の戦いの幕開けだったのを知るのはまだ誰もいない。
*
「今回集まってもらったのは森川班、鈴村班、鈴谷班の三つとそして我班の計四班」
配られた書類には6区の掃討についてと書かれていた。そして、二頁目にはメンバー計22名の名前が書かれていた。
「私たち西彼杵班は君たちとは違い普段は対策Ⅱ課だが、今回の掃討戦では司令塔として共に戦わせてもらう」
彼女はそう言うと、メンバー22名の名前を呼び始めた。
西彼杵班
班長 特等捜査官 西彼杵 希偲
班員 特等真戸暁 一等瓜江久生(副班長) 二等米林才子
森川班
班長 特等捜査官 森川智之
班員 特等神谷浩史(副班長) 上等宮野真守 一等島崎信長 二等福山潤 三等寺島拓篤
鈴村班
班長 特等捜査官 鈴村健一
班員 特等櫻井孝宏(副班長) 上等下野紘、前野智昭 一等松岡禎丞
鈴屋班
班長 特等捜査官 鈴屋什造
班員 一等半井恵仁(副班長)、阿原半兵衛、環水郎、御影三幸、六月透
「以上22名に6区掃討戦を命じる」
「はい」
全員が返事をすると書類の中身に移り始める。日にちはちょうどふた月後の今日。人数は22人プラス一般捜査官40名の六十名と二人。
「あの、聞きたいことあるですけどいいです?」
「何ですか、鈴屋特等」
「この廃ビル狭いです、一般捜査官は0にした方がいいのではないですか?じゃないと、みんな死ぬですよ?」
「一般捜査官には戦闘よりも外の強化をしてもらう。逃げ出し防止のために」
二人が静かに目線を合わす。それに合わせてみんなも静かになった。そして、西彼杵が資料に目を向けると鈴屋も資料に目線を変えた。
「それにしても、一般捜査官が多すぎないか?1/3は減らしてもいいと思うけどな」
資料を見ながら言う森川に西彼杵はペンで何か付け足す。それから、三十分は四頁以降に進まなかった。
今回の戦闘の舞台になる廃ビルは昔の6区西部で中心的なショッピングモールだったのだが10年ほど前に喰種に襲われ今も人は入れないほどになっている。そして、ここ半年でとある喰種組織の拠点となっていた。
「今回戦う喰種組織はこの掃討部隊以外には極秘事項だ。厳守してもらいたい」
そして、やっと五頁に進んだ。が、そこには見知った顔がいた。
敵の組織名は【DAK】(ダック)幹部は13名でリーダー格が二人。通称【oz(オズ)】と【nz(ナズ)】どちらもSSレート。他11人の幹部たちも最低レートがS-レートで手ごわいと思われる。
そして、確認された2名の喰種の顔写真が資料に貼り付けられていた。
「photoAがoz、Bがwg(ウィグ)です」
Aと書き込まれた写真には一年前までよく連絡を取り合っていた人間だった。いや、人間というのはおかしいだろう。正しくは【喰種】だった。Bの写真に写っている喰種もよく知っていて仲が良かった。ふと、隣に座っていた神谷を見ると顔面蒼白で手が震えていた。
「神谷さん、大丈夫ですか?」
「え?あ、うん。大丈夫だよ」
そう言って神谷は笑ったが呼吸が震えていた。何故だかなんてよく分かっている。そして、無意識に写真を撫でた。
かつての友人が写ったその写真を。黒いマントにフードを被りマスクしているが、微かに見える目元と目は紛うことなく彼だろう。
「三日後の午後四時にこの場所で再び会議を行いますので把握お願いします。鈴村班は警察に当日二時間前までには近辺の住人を全て避難するようにと連絡してください」
「はい、了解しました」
一通りの話が終わると、各々の役割を確認して会議は終わった。なんとなく、煙草が吸いたくなって喫煙ルームへと足を運んだ。
「潤、煙草辞めたんじゃなかったのか?」
「森川さん」
そう言って入ってきたのは森川で、彼は喫煙者ではない。まだ煙草に火をつけてなかったため喫煙ルームから出た。
すぐ横の壁に寄りかかって話を始める。
「年末だけの儀式じゃなかったのか?」
「.....やっぱ、止められなくて」
そうやって笑う福山の肩を森川は軽く叩いた。森川もきっと分かっているのだろう。大丈夫だと、信じていても信じきれないものもあると。
「多分、Dと代永ですよね。あれは」
「そうだろうな」
「神谷さん大丈夫ですかね」
福山の隣で震えていた神谷はあのときまで小野と恋人だった。明白な別れはなかったけど、もう恋人としてはいれないだろう。だからこそ、今回の作戦で戦うことに不安を持った。少しでも私情が出れば武器に現れてしまう。そのとき、神谷は死んでしまうんじゃないかと思ってしまう。
「あいつはきっと無理だろうな」
現実を受け入れることにこれだけ時間が経っても無理なのかと信じていたものがすべて崩れていくのはこんなにも怖いものかと今さらながら知ってしまう。
「潤、お前はあいつを殺せるのか?」
「俺は.....」
*
初戦【6区掃討戦】まであと61日
*
友達、なんて残酷なコトバだろう
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