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その春、僕と創は無事に桜を見る事が出来た。
庭へ出て、昨年のように桜の木の下での花見とはいかなかったけれど、それでも、僕と創は共にあの約束の通り桜を見飽きる程に毎日、毎夜、眺める事が出来た。
「………もう、桜も終わりかな」
窓の外の、もう緑の葉ばかりとなってしまった桜の木を見詰めながら創がポツリと呟いた。
「また、来年見られるだろうさ」
わざと素っ気ない言い方をして、僕は椅子に座って窓の外を眺める創の肩にそっと手を乗せる。
「………」
創は、僕の言葉に応えなかった。
「創、大好き………だから、お願いだからっ………僕を置いて、逝かないで………」
散ってしまった桜を眺めていたら、なんだかもうどうしようもなく堪らなくなってしまって、僕は後ろから創を抱き締めて泣きながら何度も何度もそう言って懇願する。
創は何も言わず、僕が泣き止むまで腕を握ってくれた。
温かな創の掌。
感じる脈動。
創の体温、生きている証。
やがて、そう遠くない未来………それはなくなってしまうものだった。
「蒼………私がただひとつだけ、心残りがあるとしたら、それは蒼、お前をこの屋敷に遺してしまう事だよ」
淡々と語る創の表情は、後ろに立つ僕には見えない。
「“渋木”の力を使うのは嫌なのだが、これくらいしか私には出来ないから………蒼、桐島という男を覚えているかい?蒼がこの屋敷にやって来てすぐに会った事がある筈なんだが………いや、まぁ蒼が覚えていなくても構わないね。兎に角、私は蒼に託せるものは全て渡せるように手配しているよ。私がいなくなっても、一生を暮らしていけるだけのモノを私は蒼に渡せるよう準備してもらっている。だから、蒼は何も心配しなくて良い………大丈夫だから………」
そんなモノは、いらないのだと………。
僕はただ、創が側にさえ居てくれればそれで良いのだと………。
他には何も望みはしないのだと………。
そんな想いをすべて飲み込んで、ただ一言。
「ありがとう、創」
ただ、感謝の言葉を紡ぐ。
すると創は振り向いて、安心したように優しく微笑んでくれた。
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