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部室を後にし校門を出ると、各々が自宅や寄り道先へと向かって歩き出す。
「お疲れ様でーす」
ニヤニヤする三年生に見送られ、緒方さんと二人で歩き出す。
(あの人達、絶対面白がってる…)
今日三度目のため息が出た。
「緒方くーんお疲れ様ー!また明日ねー!」
緒方さんのクラスメイトだろうか。
女子生徒が数人、遠くから手を振っている。
「おー、遅くまでお疲れー」
緒方さんは笑顔で応えた。
(緒方さんはなんでこんなに普通なんだ…)
みんなと別れるとすぐに住宅街に入る。
薄暗い道。
明滅を繰り返している街頭の明かりが、二つの影を地面に落とす。
「腹減ったなー」
少し先を猫背で歩く緒方さん。
(とりあえず普通に。平常心で)
「そうですね。そういえば昼間の課題、ちゃんと提出しましたか?」
「おー大丈夫大丈夫!つっくん優しいし!」
つっくんというのは緒方さんの担任の先生のあだ名だ。
20代の若い先生で、生徒に人気がある。
先生は直接そう呼ばれている為、自分のあだ名はもちろん知っている。
知らぬところで「蒸しパン王子」なんて呼ばれてるよりよっぽどいい。
「今日の音楽歌のテストでさー、なんかみんなに笑われたんだよな」
「声が大きいからじゃないですか?」
「んな事ねーし!で体育サッカーでさ。あっ!サッカーと言えば山田くん!クラスの女子が、かわいーって騒いでたな」
「わかる気がしますね」
「山田くん明るくていいよな!で、五時間目数学とかもう起きてられなくてさ」
相も変わらず話題はひっきりなしに変わる。
いちいちまともに受け答えをしていたら話題についていけなくなる勢いだ。
「バレー部の吉沢が突き指したってテーピングぐるぐる巻きで、シャーペン握れねぇって騒いでたな。バレーやってたら突き指は義務みたいなもんだろ?」
「義務の使い方間違ってますよ」
「えっ?!」
バス停が見えてきた。
車のヘッドライトが近付いてくる。
「お、秋月!バス来る!」
「じゃあ失礼します。お疲れ様でした」
「おう!お疲れ!」
駆け出す。
ほっとした。
またなにか昨日の事を言われたなら二人きりの帰り道、どこにも逃げ場がないからだ。
バスに乗り込む。
乗客は自分のみ。
一番後ろの窓際の席に腰を降ろす。
扉が締まり、エンジンが掛かる。
ふと窓の外に視線をやると、緒方さんがこちらを見て立っていた。
バスがゆっくりと走り出す。
緒方さんは、にかっと笑うと手を振った。
慌てて頭を下げたがバスはスピードを上げ始め、それが緒方さんに見えたかどうかはわからなかった。
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