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男娼とヤクザ/シーズン2(第10話)
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「湊、ちゃんとメシ食ってんのか?」
既に、時刻は夜の10時を回る。
兄弟水入らず。
普段なら酒を引っかけ寝るだけの嵩原も、今夜ばかりは『夕食』を味わう。
食卓に並べられた、湊の手料理。
手際よく作られたそれは、若い男子にしてはなかなか美味な品の数々。
冷酒片手に摘まむ嵩原の箸も、思いの外よく進んだ。
「兄貴ぃ、来る度にそれ言うの止めてよ。これでも俺、結構人気の美容師なんだぜ」
「そら悪かったな……………お前が関西に戻るんは養子に出た以来やから、つい気になってしまうねや」
向き合う顔にも、笑顔が絶えず。
こうして会話が出来るようになったのは、ここ2、3年。
養子に出た以来。
そう言った嵩原の言葉が、全てを教える。
「今夜、泊まって行くんやろ?」
「そうだね、泊まろっかなぁ………」
以前、嵩原が上地へ語ったように、嵩原には兄弟がおり、女癖の悪かった父親のせいで生活は苦労した。
その兄弟が、実は湊。
母親と子供二人、本当にひもじい毎日で、食べていくのがやっと………………見かねた親戚が、関東にいる知り合いへの養子縁組の話を持ちかけた。
子供が出来なかった夫婦が、跡継ぎを探してる………湊はどうか?と。
苦渋の選択。
このままでは、家族が飢え死に。
母親は、泣く泣く幼い湊を手放したのだ。
あれから20年。
関西の店舗へ異動して来た湊が嵩原を捜し出し、再び交流は始まった。
元々歳が離れ、仲が良かった二人はあっという間に昔と同じ睦まじさを取り戻す。
「………………ねぇ、兄貴」
「ん………………何や」
「もしかしてさ、大和に会ってる?」
「………………は?」
ドキッとした。
食事も終わりに近付いた頃、思いもしない話題が嵩原へ降りかかる。
ポーカーフェイスは慣れているから、全く顔に出す事はなかったが、チラッとこちらを見る湊の目が、自分の心を探ってる。
湊がこちらに来てから、嵩原が内心驚いた事が一つある。
度々湊の口から出てくるようになった、大和の存在。
まさか、自分が密かに見守って来た大和が、湊と知り合うなんて………………。
「会ってへんわ……………どないしたんや、急に」
「いや……………何かさ、大和が恋してるみたいで………それも、ヤクザに。名前は教えてくれないけど、特徴聞いたら兄貴に似てんだよね。大和の奴、危なっかしいからさぁ、心配するじゃん?」
しかも、多分湊は大和が好きだ。
「最近、高橋さんの目も気になるし、山代って客もやたらと指名してくるようだし……………どちらにせよ、大和が困る様な真似するなら、俺出て行こうかと思ってる」
それが、恋か友情か、詳しい事はまだ読めない。
読めないが、大事に想う気持ちは本物。
だから、嵩原もヘタな事は言えなかった。
後ろめたいのか、何なのか。
何故か、言えなかった。
「山代……………へぇ、そないな客もおるんか」
「うん、なかなかの上客らしい。何度か一緒の所見たかな……………本気だと思うよ、大和の事」
「本気ねぇ………………」
そして、大和の事を誰よりもわかってる湊は、嵩原にとって初耳な情報をよく口にした。
例えば、今出た『山代』。
そんな客は知らなかった。
高橋以外に、大和にご執心な男。
モテモテやないか、あいつ………………。
「…………………何が忘れられんな」
手に持ったグラスを口へと運び、嵩原はどこかイラッとしていた。
「何か言った?兄貴……………」
「ああ、いや………………ま、力が必要な時は俺に言うて来い。組の名前なんぞ使わんでも、助けてやれる事はなんぼでもある。わざわざ、お前が汚れる必要ないわ」
「ありがとう………………いてくれるだけで心強いよ」
心強いよ。
笑顔でそれを言う湊が、愛しい。
「飯が済んだら、久々に呑み明かすか…………」
「いいね、それ♪俺、最近ウイスキーも呑んでる」
「そうか……………ほな、とびきりなん出したるわ」
可愛い湊と、放って置けない大和。
これから二人はどうなっていくのだろう。
それに、自分はどうしたいか。
また少し、悩みが増えた。
「…………………あかん、最近客取れてないな」
夜の繁華街は、煩い。
フーゾクが並ぶ界隈に立ち、大和はボーッと空を見上げた。
まともにメシ食ったの、いつやっけ……………?
それくらい、客を取れていない。
体重、減ったよな。
「あー、うるせぇ…………」
見慣れたネオンも、相変わらず押し寄せる空腹にイライラばかりが募る。
不発の連チャン。
別に、客が来ない訳じゃない。
自分で言うのも何だが、こう見えて顔はそこそこイケてるので客は寄って来る。
寄って来るが、直ぐに客が怒って帰ってしまうのだ。
『…………嵩原やない。嵩原は、もっとええ男や』
気付いたら口が毒を吐き、顔からは嫌悪感がただ漏れ。
『悪かったな!!顔があかんで!誰や、嵩原って』
ごもっとも。
そりゃ、客も激高する。
「どんだけ嵩原やねん……………」
大和は頭を抱えて踞った。
ヤバい、重症である。
嵩原が好きだと意識してからと言うもの、どんどん膨らむ恋心。
自分は、こんなに純粋だったのか!
大和自身も戸惑う猛スピードで、頭の中は嵩原一色に染まっていった。
「どないしよ……………もう生きるか、嵩原かの選択肢しか頭にない」
滑稽だが、本人はいたって真面目。
生きる為に嵩原を捨てるか、嵩原を取る為に飢え死にか。
嵩原………………。
フラフラの身体が、好きを求めてる。
「こないな状況でも会いたいて…………俺、救いようないわ」
はぁっと大きな溜め息をつき、大和は足ばかりが行き交うアスファルトをただ黙って眺めた。
「嵩原さん、クラブ『彩華』のママがお会いしたい言うてました」
…………………へ!?
「嵩原……………!?」
雑踏の中、不意に入って来た声が大和を復活へと導く。
慌てて上げた視線の先。
「麗子ママが?なんや、珍しいの……………クラブで揉め事でもあったか………」
「嵩原……………っ!!」
完全に、相手がヤクザの幹部と言う事を忘れてた。
賑わう繁華街ど真ん中。
嵩原を呼び捨てにして、叫ぶ少年。
「大和……………っ」
一段軽く下がった歩道から、驚いて振り返る嵩原の顔が、大和の目に飛び込んだ。
ああ…………やっぱり、顔モロ好み…………。
「また、あのガキ…………!」
呆れる組員達など、なんのその。
大和は、嵩原一直線に走り出した。
「あ、おいっ…………足元………」
「え………………おわぁっ!?」
ガクッ……………ドタァァンッ!!
踏みしめた歩道は、段差アリ。
大和は足を踏み外し、見事派手に転がった。
「ぃ………………つ……」
「お前………………俺の前で、何回転ぶねん。メシ食っとんか?フラフラやぞ」
苦笑いする嵩原が、ゆっくり差し出したのは、躊躇う事ない救いの手。
「……………それ、触ってええん?」
「ええもなにも、起き上がるんしんどいやろ」
怪我を手当てしてくれた時、ずっと見ていた嵩原の格好良い手。
触ってええん?
わかりやすい程顔を赤くする大和に、嵩原はより腕を伸ばす。
嵩原の手………………。
嬉しくて、大和がそれを掴みかけた時、また事態は変わる。
「うっ………………」
「………………どうした?」
突然表情を歪める、大和。
本当に、何回迷惑をかけるのだろう。
皆が放って置けないと言うのは、こんな所かもしれない。
「ごめ……………足、くじたかもしれん」
「……………………はあ?」
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