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絶叫マシン(後編)
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「全く……………あの方だけは、ホンマ掴めん」
近場では人気の遊園地。
至る所で悲鳴と、絶叫マシンの走り抜ける轟音の数々。
嵩原が、絶叫マシン嫌いだとは思いもしない錦戸は、大和に連れて行かれる背中を眺め、高橋相手に愚痴を溢す。
嵩原付きでは、遥か先輩の高橋。
この言い様のない大変さが一番伝わるのは、勿論高橋以外にはいない。
以前は、高橋をやたらと意識していた錦戸も、最近はようやくこんな話をする仲に変わっていった。
多分、それだけ錦戸の中で、自信と貫禄が付いたからだろう。
「今日かて、いきなり集まれ言うて…………来るなら来るて、前から話してくれはったら、準備でもして差し上げたのに」
「まぁ、せやな……………今回はプライベートやから、余計お前に手間かけさせとうなかったんかもしれんけど……………俺も、いまだにあの方は把握しきれてへん。てか、把握は無理や」
だから、高橋も然り気無く大和達を見守りながら、プリプリ怒る錦戸の話に耳を傾ける。
高橋も、錦戸の頑張りは認めてる。
現実問題、竜童内で一番過酷な任務が嵩原付きであり、それを淡々と遂行する錦戸は、かなり優秀だと言えた。
「無理て……………お前に言われたら、俺は相当無理やないか」
「そないな事もないけど………ただ俺は、お前とは側にいた年数が違うしな。それに、今でも若と親父のお世話をさせてもろうとんのが大きいわ。でも………ようやっとると思うよ、お前は」
「え…………………」
「親父と歩いた壮絶さに比べたら、2年で若を頭に据える方が楽やった……………親父とおるんは、それくらい大変や。お前の2年は、相当なもんやで」
「高橋………………」
いや、2年で不良を日本一の若頭にするのも相当なものだ。
なのに、それをサラリと弾き、自分を称えてくれる高橋に、錦戸は少しだけ顔を赤くした。
照れ臭い。
ずっと一人で突っ走り、嵩原だけを追って来た錦戸にとって、嵩原以外に褒められた記憶はない。
嵩原だって、滅多には褒めたりしない。
実際、それが当たり前であって、自分はそれを求めて側にいたいわけではないと思っている。
まさか、高橋が……………。
「ア、アホか…………らしくねぇ事言うな………」
「そうか?そら悪かった…………」
目を逸らす錦戸を見つめ、高橋は何もなかったように笑う。
悔しいが、こんな所がまだ勝てない。
自分は、高橋にはなれないのだと痛感する。
「なぁ、親父ぃ…………前乗る?後ろ乗る?」
「………………え」
互いの右腕が、普段ない会話で距離を縮めている頃、それらの主は両極端な想いに心拍数を上げていた。
「どっちが面白いかな?な♪」
な♪
嵩原の腕を掴み、嬉しそうな大和の笑顔が、順番待ちの列で咲き誇る。
そんなに嬉しいんだ、大和。
高鳴る鼓動に鼻歌混じり、誰が見ても思わず笑みが浮かぶようなルンルン姿。
「な♪………………ねぇ」
ああ、可愛い……………。
どっからどう見ても、喜ぶ大和は可愛くて仕方がない。
いつもなら、そんな大和を目にして口元を緩める嵩原も、今日ばかりは既に吐きそう。
本当に苦手なんです、絶叫系。
昔から、遊園地など縁遠い貧乏生活だった、嵩原。
周りの友達が楽しそうに行った話をしていても、自分は行かれないとわかっていたし、別に望んでもいなかった。
ところが、小学5年の遠足。
突然機会は訪れる。
嵩原は、生まれて初めて遊園地へ行く事になり、生まれて初めて絶叫マシンを経験した。
友達に誘われ、ノリで乗ったが最後、そこからの記憶が真っ白。
気持ち悪過ぎて、ぶっ倒れたのだ。
結局、ずっと安道がバスに残ってくれ、気付いた時には学校だった。
「はぁぁ……………マジか………」
嵩原は静かに深呼吸をし、逃れられそうにない状況に頭を抱える。
大和の前で、ぶっ倒れたくない。
だがしかし、次のグループが終われば順番が来る。
「やっぱ、一番前が迫力あるんじゃね?」
その上、一緒に並んでいた桜井が、全く空気を読まない助言を放つと来たもんだ。
「湊………………っ」
お前、要らん事を……………!
たまらず嵩原は、桜井へ睨みを利かせようとした瞬間、大和の手が掴んでいた腕をグイッと引っ張った。
「やっぱりか!親父、前行こう!!前がええ!」
「ぉわ………………っ」
ガッチャン…………………!
「皆様、安全装置の確認を致しますので、少しお待ち下さいませ」
順番が来たらしい。
ハッとした時には、嵩原は大和に座らされ、一番先頭に陣取っていた。
ギャァァァ………………ッ!
なんて思う暇もなく、あっという間にマシンは走り出す。
ガタンゴトン…………徐々に加速し始める緊張感の恐ろしさ。
まだ抗争潰しに行く方が、百万倍楽だ。
そう思いながら腹を括った嵩原の横で、大和が小さく自分を呼んだ。
「親父……………っ…」
周囲に悟られないよう、嵩原の手に僅かだけ重ねて来た指先。
前を向く大和が、自分を離そうとしない理由。
これも、大和からしてみれば、デート。
嵩原と一緒だと言う事に、意味があるのだと感じた。
「…………………大和」
なんて健気か。
キスの一つでもしたくなる……………。
と思った途端、一気に世界はマッハの如く消えてった。
「あれ?親父と大和、まだですか?」
そろそろ、時刻は夕方に迫る。
伊勢谷と山代の三人で時間を潰していた花崎は、これまた遊園地のカフェでお茶をする高橋・錦戸・桜井と合流。
姿の見えない嵩原と大和に、辺りを見渡し、首を傾げる。
「大和の奴、嵩原組長を随分連れ回してたからな……まだ遊んでるかも」
「若も、親父とこないな場所来た事ないさかい、無理ないわ……………もう少しお待ちしよう」
温かな珈琲片手に苦笑いする桜井の隣で、高橋も大和の楽しそうな様子を浮かべ皆を諭す。
若頭と言えど、まだ高校生。
花崎達も顔を見合せ、大和が親子水入らずを楽しんでるならと、黙って頷いた。
「………………親父、まだ帰らんでええん?」
「ええわ…………ここ夜も開いとるし、まだ時間大丈夫や」
絶叫マシンの支柱の下。
木々に囲まれた死角の中、嵩原と大和は二人だけの時間を過ごしてた。
「ふーん、大丈夫ならええけど♪」
「何や、嬉しそうやな」
「嬉しいよ。だって、親父を独り占めやん」
「あ……………?」
青々とした芝生に横たわり、見上げる嵩原の視界には自分を見つめる愛息子。
今、嵩原は大和の膝枕の上に寝転がっている。
原因は、例の絶叫マシン。
終わって直ぐ、嵩原は桜井にトイレだと行って、大和を引き連れ雲隠れ。
ヤバい、ヤバい…………頭がグラグラする。
懸命に耐えはしたが、やはり駄目な物は駄目だった。
気持ち悪いし、吐きそうだし。
この隠れ家を見付けたと同時に、大和を座らせ膝枕に頭を乗せた。
『親父……………!?』
『うるせぇ、何も言わんと俺の相手せぇ』
驚く大和も一刀両断。
しばらく、まともに喋れない程寝込んでやった。
「親父が、絶叫マシン苦手で良かった…………ずっとこうしていたいわ」
「アホか……………膝枕は最高やけど、二度とマシンは御免や」
「ぷ……………可愛い………♡」
「あのなぁ……………こっちは、マジ吐くかと思うたんやからな。冗談ちゃうぞ」
初めての親子で遊園地。
楽しかったかどうかは、遊んだ内容よりも、愛しい我が子の笑顔でよしとしよう。
父親の意外な弱味を知った、大和の幸せそうな顔。
夕焼けに染まる景色に、それは何よりも眩しく輝いた。
「………………また来たいな」
「もう、ホンマ勘弁してくれ…………」
嘆く嵩原が、大和の心を擽る。
ええ仕事しましたよ、お父ちゃん。
息子、大満足ですから。
(皆様、ありがとうございます!!もう一気に詰め込み、長くなりました…すみません。いつもお付き合い下さり、本当にありがとうございます)
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