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寄り添う人(高橋と大和)/後編
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『足手まといじゃ……………』
足手まとい。
父親の言葉が、頭へガツンと打ち付ける。
ヤクザになると啖呵を切って、数ヶ月。
やってる事は、無駄な喧嘩とそれを真っ向から受けるだけの単純な脳。
負けん気だけは、一人前。
高橋の言葉も父親の言葉も、その通りだと思うのに、下らないプライドが邪魔をして素直に聞けない。
プライド?
今の自分に、それを主張するだけの器はあるのか。
「情けね……………」
父親達の元から逃げるように駆け出した大和は、二階の廊下まで辿り着くと、重い足をパタリと止めた。
ジンジンと痛みを帯びる、頬。
でも、叩かれた頬の痛さより、自分への不甲斐なさで心が軋む。
高橋に酷い事を言ってしまった。
唯一、自分の味方になってくれた男。
周りがどんなに馬鹿にした目で見て来ても、高橋だけは絶対にそんな目はしなかった。
「も…………付いてくれへんかも…………」
込み上げてくる、遅い後悔。
見える世界の狭さに、瞳はみるみる揺れていく。
高橋………ぃ………。
薄暗い廊下に差し込む僅かな月明かりが、自分の行く手をちょっとだけ照らす。
意気がってヤクザを名乗った未来の不透明さ。
こんな自分に、ヤクザなんてやっていけるのだろうか。
ポロポロ落ちる涙にジャケットの袖を濡らし、大和は大きな溜め息をついた。
15歳なりに踏ん張った覚悟が、ミシミシと音を立ててぐらついている。
「大和さん……………っ」
ビクッと揺れた肩が、微かに震えた。
いつの間にか後を追って来た高橋が、直ぐ真後ろに立ち竦む。
「た……………」
さっきの生意気さは何処へ。
絞り出す声さえ、最早小さい。
それでも、そんな大和を支えるのは、やはり高橋しかいなかった。
「顔、手当て致しましょう………せっかくの男前が、台無しです」
振り返る勇気もない大和に触れる、優しい手。
何で、まだ優しくしてくれるんだ。
「ぉ…………男前ちゃうし…………」
大和は、肩に触れる高橋に泣き顔を見られないよう、少しだけ視線を逸らした。
恥ずかしい。
この優しさに、また涙が溢れてく。
「いいえ…………私の主は、とても男前です。私の自慢ですから」
「主って……………俺は……」
「自慢なんです」
熱い頬を高橋の指先が滑り、強い意志が真っ直ぐに自分を見据える。
「高橋……………」
「何を言われても、離れたくはありません。大和さんが腹を括った時から、私は共に生きていくと決めたんです……………貴方を育て上げるまでは、鬱陶しいと思われようとお側にいます」
父・嵩原の右腕のままであったなら、こんな子供の相手に苦労する事もなかったろう。
竜童会、高橋。
自らの築き上げた実績をも捨て去り、たかだか15歳の少年に全身全霊を誓う。
何で………………。
勿体ない。
「勿体………ねぇ……よ……っ」
思わず高橋の身体へしがみつき、泣き崩れるちっぽけなガキの現実。
結局、高橋がいてくれる事に、こんなにもホッとしてる。
「勿体ないんは、私の方です。こないに素晴らしい宝石を、独り占めさせて頂いとるなんて……………毎日毎日、大和さんの成長を拝見するのが、どんなに楽しいか……………わからない奴等は、それだけ見る目もない言う事です」
降り注ぐような温もりが、大和の胸へどれだけの光をもたらすか。
「まだ15歳………大人に囲まれ、よう引かんと喧嘩を買われました。全ては、私の責任ですね…………申し訳ありませんでした。これからは、いつも付き添い致します」
「い………いつも…………」
「喧嘩のやり方、回避の方法………学んで下さい。嫌やなんて、言わせませんよ?」
真っ赤な瞳で見上げた高橋は、とても穏やかに微笑む。
小さなヤクザに付いた、立派な右腕。
何があっても寄り添おうとしてくれる決意が、これからの大和をまた大きく成長させる。
高橋が悪いのではない。
一人で遊びたくて、コッソリ何も言わず出て行っていた自分が軽率だった。
でも、この日を境に大和が気持ちを改めたのは、確かだ。
高橋の行動を見て学び、大和自身が喧嘩をする事もグッと減っていった。
「それから、親父には了解得ましたが………大和さんをこないな目に遇わせた連中、礼しに行きましょ」
「……………へ!?」
驚く大和を見る、高橋の腹の虫。
「言うた筈です。ヤクザの面倒くささをわかってへんと…………ヤって来たのは、向こう。ヤられたら、ヤり返す。竜童の看板、ナメられて許せますか?ましてや、私の大切な人に手ぇ出されて、誰が黙っていられましょうか。ボコボコにしてやりますよ」
「たっ…………高橋…………」
クスリと笑った顔のなんと綺麗な姿か。
大和から話を聞いて、高橋の怒りは収まりを越えていた。
この数時間後、本当に高橋はやり遂げる。
私の大切な人。
大和を想う気持ちは、中堅クラスの組の若頭以下約20名をズタボロにして、幕は下りる。
呆然とする大和の目の前で、全員に土下座をさせて、高橋は完全なる事の収拾を図った。
勿論、相手が竜童会と知り、そこの組長が事を荒立てる筈もなく、関西の裏社会へ二人の存在を知らしめて、この一件は終わりを遂げた。
大和と高橋。
極道の世に、なかなか有名な主従が出来上がる。
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