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X'mas(チビ大和と竜也編)
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「なぁ、お父ちゃん………サンタさんて、お父ちゃんなん?」
「……………は」
それは、幼子がいずれは通る禁断の扉。
サンタは、お父ちゃん?
夢を壊したくないと想う親に、この質問は何とも悩ましい。
サンタは、お父ちゃん。
『違う』と答えたとして、徐々に周りが『親だ』と言い始めた時、何処までそれを死守出来るのだろう。
逆に、友達のほとんどが『え、親だろ?』とまとまる最中、一人だけ『違う』を貫く健気さに親は耐え抜けるだけの信念は持ち得るか。
「はるちゃんがな、去年のクリスマスに寝たフリしてたら、お父ちゃんとお母ちゃんがプレゼント置いてたって言うたんや。せやから、ウチもお父ちゃんがプレゼント置いとるんかなーて、思うて」
「え……………」
幼稚園の帰り道、ついにそれがこの親子にも訪れる。
可愛い可愛い我が子の手を引き、今日は公園でも行こうかなぁとルンルン気分でいた矢先の、この何とも返答に困る質問。
つぶらな瞳を真っ直ぐこちらへ向ける大和に、はるちゃん……!と心の中で思わず叫んだ、竜也の動揺をおわかりだろうか。
仲良し親子に、試練の時。
「お父ちゃんが置いとるん?」
「いや…………まさか……」
「ほな、やっぱりサンタさん?」
「あ、当たり前やろ」
「なら何で、はるちゃんちはお父ちゃんとお母ちゃんやったの?」
はるちゃーーん!!
もう、顔も知らないはるちゃんちのパパとママを、嫌いになりそうな勢いで大和の質問は続いてく。
サンタさんがいるか、いないか。
いずれはバレるにしても、まだ早いだろ。
幼稚園児の純粋な夢を守りたい父親に、純粋を越えた鋭い指摘が覆い被さった。
「そら、あれや…………」
「あれ…………?」
「何つーか、ほら………サンタさんも世界回ってて忙しいやろ?だからな、お父ちゃんやお母ちゃんにプレゼント渡してくれるよう、頼んだりするんや」
「えっ、せやったらお父ちゃんも頼まれた事あるん!?サンタさんに会った!?」
「あ……………」
快晴の美しい空に響き渡る、ハイテンション迫る大和の愛らしい声色。
あ……………。
竜也、遂には自分で自分の首を絞めてしまった。
サンタさん、そりゃ会えたらスゴいよね。
「えーと、俺は…………ねぇかな」
「何で!何で、お父ちゃんはないんや?はるちゃんちと何が違うんっ」
「んー、何が違うんかなぁ…………」
それは、毎晩爆睡してくれる大和のお陰で、バレずに置けてるから………なぁんて言える筈もなく……。
「ズルいわっ………はるちゃんち!」
マズい。
流れが、明らかにはるちゃんちへの恨み節へと向かってる。
小さな手で自分の服の裾を握りしめる息子に、竜也の心はギュゥゥゥと潰れそう。
ああ、愛しさと罪悪感が入り交じる。
どうしよう。
このいたいけなおチビの無垢なハートを、自分は守れる自信がない。
大和の手を掴み、空を仰ぐ竜也に神のご加護はあるのか。
「おい、お前ら何しとんねん…………」
神のご加護はないが、知恵は二つになったらしい。
「京ぉ…………!!」
「京之介………ぇ……」
「………………はい?」
クリスマスが間近に迫った、この日。
実家が貰ったケーキを二人に食べさせようと、大和の帰宅時間を見計らって訪れた、京之介。
アパートまであと少しと言う所で、道のど真ん中で騒ぐ親子を見付ける。
すがるような竜也の眼差しと、悔しさを滲ませる大和の表情に、ちょっと嫌な予感はした。
「京っ、あんな……大和が、幼稚園でな………っ」
「京之介っ、聞いてや!幼稚園のはるちゃんが……」
「ちょい待て…………お前らが親子言うんは十分わかったから、同時に言うな。順番に説明せえ」
一斉に話始める抜群のタイミング。
どんだけ息ピッタリ。
二人の前に手を翳して宥める京之介も、その様子に内心笑ってた。
竜也と大和が同レベルって…………。
可愛いじゃねぇか!
結局、ある意味京之介も親バカなのだ。
それから、話を聞きながらアパートに帰宅した京之介は、はるちゃんちに不満を抱く大和を抱き寄せ、優しい口調で語り始めた。
外は風が強まり、窓や扉がカタカタと音を鳴らす、古ぼけた住まい。
ここで、若い父親が一生懸命我が子を育ててる。
それが、どんなに大変か。
この頃は多香子もいたが、秋口から体調を崩し、先月また入院していた。
だから、京之介は言った。
不器用な竜也が、毎日愛する大和の為に奮闘している事の苦労。
「あんな大和…………はるちゃんちは、いつも家にお父ちゃんもお母ちゃんもおって、二人で協力して家の事もされてはる。せやからな、サンタさんも少しお手伝い頼んでもええかなぁて思うたんや。でも、ここは違うやろ?…………お母ちゃん、時々入院するさかい、大和とお父ちゃんはその応援を先ずしたらなあかん」
「うん!お母ちゃんが早よう治るよう、いっつも寝る前にお父ちゃんと神様にお願いしとる!」
「そうや。そして、応援しながらお父ちゃんは、家の事を一人でやっとんねん。二人の洗濯物干して、二人のご飯作って、大和のお弁当に幼稚園の送り迎え…………しかも、そこへ仕事も重なる。大変や」
「大変や…………!」
自分の話に相づちを打つ大和へ笑みを浮かべ、撫でる手には勿論愛情を注ぐ。
「それを、サンタさんもちゃんとわかってくれとんやな……………夜くらいは、お父ちゃんにもゆっくり寝させたらなあかんなて。これで自分のお手伝いまでお願いしたら、お父ちゃん寝る暇のうなるし」
「ホンマやな…………お父ちゃん、忙し過ぎる」
「な?だから、サンタさんは二人が寝ている間に来てくれとるんや。でも、はるちゃんちみたいに手伝ってくれる家もあるから、サンタさんは世界中を回れる…………つまり、助け合える言う事は、それだけ大切な事やねんな」
「そうか!どっちも大切な事なんや!わかった、京之介……………助け合いなんやな!」
京之介の話に懸命に耳を傾けていた大和の瞳が、みるみる輝きを見せる姿は、何とも言えない程胸を締め付ける。
「京………………」
二人を見ていた竜也は、その様子に目頭を熱くした。
助け合い。
そんな大事な事まで教えてくれる京之介に、感謝しかない。
可愛い息子と、息子を大切にしてくれる心友。
こんな幸せな事って、あるだろうか。
「お前が泣きそうになって、どないすんねん」
「だって…………さすが、京やなて…………」
「アホ……………」
苦笑いする京之介に照れた顔を近付け、竜也は恥ずかしそうに俯いた。
「お父ちゃん、顔真っ赤やぁー♪」
「なぁー。お父ちゃん、感動しやすうて敵わんわ」
「うっせぇーっ、感動して何が悪いんな~っ」
また、クリスマスがやって来る。
すきま風が吹くような古いアパートの一室。
金はない。
豪華な料理もない。
でも、愛だけは人一倍溢れてる。
幸せな時。
イヴの夜、多香子のいる病院でクリスマスを祝った二人は、アパートで待っていた京之介が作ってくれた料理を囲い、小さなケーキととびきりの笑顔で楽しい時間を過ごした。
そして、今宵再びサンタクロースが現れるのを夢見て、長い長い夜を迎えた。
枕元には、お父ちゃんを気遣ってくれたサンタクロースへ、大和からのお礼の手紙を添えて。
これを、どんな想いで竜也が見たか。
チラホラ小雪が舞い散る窓の外、微かに聞こえるのは鈴の音のよう。
翌朝、可愛い歓声が上がったのは言うまでもない。
(久し振りにこちらを更新しました。本編では、いつも見てくださいまして、本当にありがとうございます。クリスマスですね……去年は、大和の絵を表紙に上げました。今年は、昔話を一つ。何を入れようか、男娼にしようか悩みましたが……ここは、リクエスト含め色んな話を入れる場。受け入れられるかわかりませんが、たまにこうして自由なお話を書けたらと思っています。読んで下さいまして、ありがとうございました。どうか、素敵なクリスマスを……)
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