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伊勢谷と花崎
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伊勢谷シュウ。
十代で嵩原に救われてから、伊勢谷は勉学の事から生活面まで、全てを世話してもらう。
伊勢谷にとって、嵩原は本当に恩人であった。
そして、その伊勢谷には、もう一人の恩人がいる。
嵩原が伊勢谷を救うきっかけを作り、まだ十代だった伊勢谷を育てた、大切な存在。
「…………………高橋さん………………」
見るからに、美青年。
そんな伊勢谷が、微かに頬を赤らめ、その名を口にする。
「………………………ズルいと、思う」
「は…………………?」
竜童会関東組での宴会。
花崎は、大和の隣でポツリと一言。
「ズルいって、何がや?」
ビールジョッキ片手に、少しふて腐れ気味に呟く花崎に、大和は首を捻る。
「……………………お前には、わからんわ」
だって、大和は高橋の寵愛を一心に受けている。
何せ、『特別』なのだ。
自分の複雑な気持ちなど、わかる筈もない。
花崎はビールを一気に飲み干し、席を立った。
「え?いや………………おい………………」
見上げる大和の顔も、何だかジェラシー。
勝手にムカムカしている自分も、多分ジェラシー。
「……………………アホか、俺」
そう呟き、部屋を出ようとする花崎の目に留まる、高橋と伊勢谷の姿。
最近、大和の護衛を任されるようになった、伊勢谷。
こんな風に、自分達と行動を共にする事も増えた。
だから、最近やたらと視界に入る。
「高橋さん、ビールおかわりしはりますか?」
「ありがとう。でも、大丈夫や………………伊勢谷も、ちゃんと呑んどるか?ほら、グラス貸してみ」
イラッ………………………
この、イチャつきよう。
高橋は至って変わらないが、美人の伊勢谷が隣に座ると、イチャついているようにしか見えない。
ちなみに、伊勢谷は花崎の先輩。
生意気も言えないから、余計にうっぷんは溜まる。
「………………………高橋さん、優し過ぎんねん」
自分にも、ですが。
宴会場から廊下へ足を進め、花崎は目の前にあった窓を開けながら、外の風に当たった。
「あかん……………………完全に、妬いとるわ」
花崎は窓から顔を出し、止めてた煙草を久々に口に加える。
高橋と暮らし出して、花崎の目は、明らかに高橋に向けられていた。
生まれつき、孤児院。
嵩原に一目惚れして、ヤクザになって、今年初めて人と同居。
完璧な高橋との生活は、花崎に新たな楽しさを教えてくれた。
「わかっとる…………………伊勢谷さんかて、親に捨てられて高橋さんと暮らしてた……………………きっと、俺と同じ気持ちや…………………」
要は、寂しい。
ガタンッ…………………………
「っやべ…………………呑み過ぎた……………ぁ」
………………………あ?
しばらく、ボーッと煙草を吸っていた花崎の耳に届く、襖がガタつく音と、大和の弱った声。
「…………………大丈夫ですか?若………………っ」
「ん………………悪りぃ………………伊勢谷」
振り向けば、酔っぱらった大和を、伊勢谷が介抱している。
「やま……………………」
花崎は、声をかけようとして、咄嗟に口ごもる。
そう言えば、大和が小学生の時に、伊勢谷は来た。
俺なんかより、ずっと大和を知ってんねや……………。
何だか、伊勢谷が現れて、誰もかれも持ってかれてる気がする。
「風に当たられますか?少し先に、バルコニーへのドアがあります…………………私がお連れしま……」
「伊勢谷っ………………私が替わる」
「高橋さん………………」
フラつく大和を支え、甲斐甲斐しく世話を焼こうとしていた伊勢谷の後ろから、高橋がつかさず腕を伸ばす。
大和の事となると、高橋の動きは早い。
優しい眼差しで大和の腰を抱き寄せ、誰にも入る隙を作らせない。
「高橋ぃ…………………ごめ、呑み過ぎた………」
「はい。今日は仕方がありません……………ちょっと、お身体休めましょう、若」
本当に、『特別』だと見せつけられる。
大和以外見えていない。
花崎の目には、そう見えた。
「敵いませんね………………若には」
「…………………え………………」
去って行く二人を見つめてた花崎へ、伊勢谷が話しかける。
「………………………どんなに頑張っても、高橋さんには若以外見えへんのですから…………………」
高橋の背中を追う伊勢谷の、寂しそうな綺麗な瞳。
伊勢谷さん……………………。
こんなに美人でも、どうにもならないものがある。
花崎には、伊勢谷が自分と重なっているように、感じた。
「………………二人で、やけ酒ですね」
伊勢谷へ笑顔を向け、花崎は冗談っぽく言った。
「…………………ですね……………」
伊勢谷は、美しい顔をもっと美しく笑って答えた。
二人がまともに話したのは、これが初めてとなる。
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