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ヤクザより恐い人(前編)
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知らぬが仏。
まさに、それ。
「…………………はぁ………………」
モダンな創作料理店の内部。
予約の個室から出口まで続く通路は、片側を白い塗り壁、片側を一般席がチラりと見える格子の壁で仕切られ、足元をダウンライトがムード良く雰囲気を作り上げる。
さすが、人気の店。
床に貼られた黒いタイル一つ、安っぽさがない。
「……………………京が、関東ね………………」
久々の心友との楽しい?時間を過ごした嵩原は、その長い通路を歩き、前を行く安道の背中を見ながら、小さく息を漏らした。
安道京之介。
嵩原にとっては、これ以上にない味方。
嵩原同様背も高く、然り気無いオシャレが様になるスタイルと顔の良さ。
仲が良すぎて、昔はよく『二卵性の双子みたい』と言われたものだ。
ただ。
洒落にならない一面もある。
洒落にならない…………………。
「………………京ほど、敵に回しとうない奴はおらん」
この、嵩原竜也を以ても。
勿論、仮にそうなっても負けるつもりはないが、何事も起こらない事を願う。
「止めるのも、大変やし…………………」
ヤクザが、堅気を止める。
冗談の様な話だが、安道なら有り得る話なのだ。
何せ、嵩原とタメを張る男。
まともじゃないに、決まってる。
「竜也……………………次、バーでも行くか?」
でも、今は心友の気持ち、全く通じず。
「…………………………は」
人の心配を他所に、安道は笑顔で振り返る。
バー……………………って。
「いや、俺……………………疲労感ハンパな………」
「昨日、日本に帰って来たばかりでな。一番にお前の顔見たかってん………………ええやろ?」
ええやろ?
ええ訳ない。
一番に見に来てくれようと、疲れてるものは、疲れてる。
「……………………あかん。俺は、大和に会う」
大和に会う。
もう、直球。
オブラートに包む元気もない。
大和不足なお父ちゃん、遥々会いに来た心友より、愛を取る。
「あ……………………?なら、大和も呼べや。久し振りに、息子の顔見たいわ」
嵩原の希望、一刀両断。
心友。
それは、妥協のない敵らしい。
「誰が、息子じゃ…………………サラッと人の息子取っとんちゃうぞ」
嵩原は眉間にシワを寄せ、安道を睨み返す。
敵に回したくない筈が、アッサリ敵になる。
親バカ二人、愛息子を奪い合い。
ガシャ………………………ンッ!!
「おいぃっ!!何やってんだよっ!!」
お会計をしようとした二人の脇で、突如響く怒鳴り声。
「はあ……………………?」
静かな店内で、ムードを壊す罵声に、嵩原は眉をひそめ首を振る。
こう言うの、お父ちゃんは大嫌い。
しっとりと食事をしていた客達が、一気に不安そうな表情で緊張を露にしながら、一点を見つめてる。
折角の美味い食事が、瞬く間に不味くなった。
そんな空気が、漂っている。
「……………………何事や」
「申し訳ありません………………直ぐ見て参ります」
呟く嵩原の横から、レジにいた店員が慌てて駆けて行った。
チラッと見れば、190はありそうな大柄な若い男が、女性店員へ声を荒げてる。
しかも、男の茶色いパンツは、湿って焦げ茶色。
よく有りがちだが、多分、何か飲み物を溢した?
「何や、アレ…………………」
騒がしい様子に、今度は安道が、呆れ気味に嵩原へ声をかけた。
女性を、怒鳴る。
その時点で、安道の目にも、完全にアウトなのだが……………………。
「……………………ちょっと行って来るわ」
「あ、オイ………………竜也………………っ」
ヤクザのくせに、ヒーロー。
驚く安道を振り切り、ヒーロー嵩原は男の方へまっしぐら。
黙っておけないんです、性格上。
「申し訳ございません………………お客様、ウチの原が何かご迷惑を…………………」
「ご迷惑じゃねぇよっ………………見りゃわかんだろ!この店員が、俺の服にワイン溢したんだよっ!!」
店長らしき男性店員が頭を下げる前で、男は一段とヒートアップ。
女性店員を指差し、余計に叫び出す。
「す、すみません…………っ!!グラスへワインをお注ぎしようとしましたら、お客様の腕が当たってしまいまして…………………」
「ぁあっ!?俺のせいだと言ってんのかっ!!」
「いえっ…………すみません、すみませんっ」
自分よりもはるかにデカい男に言い上げられ、女性店員は半泣きで頭を下げ続ける。
いかにもなブランド物を身に付け、目の前には彼女らしき派手めな女を座らせる、品格の欠けた若者。
その上、女自身もツンとそっぽを向き、素知らぬ顔をしている。
高級店に来るだけ、金は持っているのだろうが、どうも場違いな態度に、空気は益々悪くなっていた。
「でも……………私、見たけど……………ワイン注いでる時に、あの人が話に夢中で、腕をオーバーに動かしてたのよ」
「本人も、不注意よね。可哀想…………あの子……」
騒がしい隣で、ヒソヒソ話す、ご夫人方の話し声。
冷たい、高みの見物の様にも取れるが、相手は大柄な怒れる男。
事実を伝える勇気がないのも、頷ける。
こんな時、誰だって中々一歩なんか出ない。
中々出ないから、出ちゃうんです、この方は。
ええ…………………だから、性格上。
「兄ちゃん……………もう、ええやろ。そんくらいにしとけや、格好悪い」
ザワ…………………………
怒鳴り上げる男の背後から、嵩原は冷静に話へ割って入る。
冷静に。
だって、普段はヤクザの喧嘩止めてます。
意気がった若者なんか、赤子の手を捻るよう。
「店員さん、充分謝っとるやないか。黙って懐の深さ見せたるんが、男やろ」
ビシッと上質なスーツを纏い、男らしさを見せつける、稀に見る男前。
嫌でも店内は、お父ちゃんの姿に目がハート。
逆に言うなら、受ける方は堪りません。
最早、嵩原が出て来た時点で、悪役成立。
周囲の視線が、あっという間に摂氏まで下がります。
「はぁあっ!?何だよ、てめぇっ………俺が誰だか知ってんのかっ、コラッ!!」
「初めて会うのに、知る訳ないわ。常識もなければ、脳ミソも空か、兄ちゃん…………………あ、脳ミソあったら、常識はアホでも身に付くか」
ごもっとも。
嵩原の一人突っ込みに、近くのテーブルでは、微かな笑いが込み上げる。
「なっ………………こ、この野郎…………っ!!ふざけんなよっ…………………貴様ァ……っ!!」
190もある大男が、顔を真っ赤にして汗をかく。
若い男が、彼女の前で恥をかかされる。
そりゃ、引くわけにはいかないよね…………………?
「いきなり現れて、格好つけてんじゃねえぞっ!」
男は鼻息を荒くし、嵩原に掴みかからんと、厳つい身体を踏み込んだ。
ガシッ………………………!!
「……………………っ!?」
突然、胸に感じた重みと共に、動けなくなる身体。
伸ばした片腕が、嵩原の20㎝手前でピタリと止まる。
顔をしかめる男は、自分の胸元にかかる力へ視線を落とした。
「な………………………なに…………」
僅かに、声が震える。
自分は、ガタいがデカい。
デカいのが自慢だったのに、足が前に出ない。
「調子に乗んのも、大概にせえよ…………兄ちゃん」
耳元へのしかかる、低い呟き。
ゆっくり視線を流せば、もう一人、男が増えていた。
「器のちっさいガキが、ナマ抜かしとんちゃうぞ……コラ」
男の脇から胸ぐらを掴み、拳一つで動きを封じる。
嵩原へ掴みかかろうとした大男を、安道の手が制止していたのだ。
「こいつに手ぇ出したかったら、俺を倒してからにせえ……………………俺を倒せも出来ひん輩に、こいつの相手は不可能や」
茶髪のパーマ男子。
チャラいようで、チャラくない。
安道京之介。
その片鱗を、垣間見る。
「京…………………………っ」
心友の動きに、嵩原は声を上げる。
ヤクザが、堅気を止める。
どうやら、本当らしい。
(皆様、いつもありがとうございます。度々の前後編申し訳ありません(>_<)また、京之介デビュー、ドキドキの中で投下しましたが、皆様の温かいお言葉やお心に胸詰まりました(;-;)京之介、本格的には続編での活躍を念頭に置いております。+では、山代の刺青の答えへもキチンと入ります。本当に、ありがとうございます)
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