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ちょっとだけ、昔の話(嵩原、安道、大和編)
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12月24日。
言わずと知れた、クリスマスイブ。
子供にとっては、一大イベントです。
「ぇえ~っ、お父ちゃん出掛けるん!?」
厚い雲が空を覆い、寒い北風が吹き抜ける季節。
今日は、クリスマスイブ。
世間は、クリスマスムード一色になってる中で、おんぼろアパートはやや険悪な雰囲気が漂っていた。
「最悪やん………………………」
「うん…………………すまん、大和。上の人の付き添い頼まれてな……………………帰り、遅うなるわ」
小さな玄関で、嵩原は見送る大和の頭を撫でながら、申し訳なさそうに謝る。
最悪やん。
そう言う大和の顔は、思い切り膨れっ面。
だって、クリスマスイブ。
母親を亡くして、まだ小さな大和には、嵩原しかいなくなった。
幼稚園の友達は皆、家族でケーキを食べるとはしゃいでいたのに、たった一人の父親でさえ、これから出掛けると言う。
「しゃーない、大和。京が、ずっと側におるさかい、美味いケーキでも買いに行こうや」
「ぶぅぅ……………………」
後の事を頼まれて来た安道は、ふて腐れたままの大和を抱き上げ、何とかご機嫌を取ろうと話しかけた。
それでも、ご機嫌は直らない。
今日くらい、お父ちゃんといたかった。
小さな大和の小さな願いは、見事に打ち砕かれる。
悔しくて悔しくて、大和は安道の肩へ顔を埋め、返事すらしなくなる。
「竜也、時間無くなるで………………早よう、行けや。後の事は、任せとき」
「悪いな……………………京」
下っぱの自由なんて、あってないようなもの。
組の幹部から好かれている嵩原は、普段から何かと声がかかる。
安道もそれがわかるから、責めもしない。
自分も色々と誘いがあったが、全て断り、二人の為に駆け付けた。
「ホンマに、堪忍や……………………大和」
いつもは笑顔で見送ってくれるチビが、今日は見てもくれない。
無理もないが、さすがに胸が痛んだ。
ガチャ…………………………
嵩原は、最後にソッと大和に触れ、後ろ髪引かれる想いでアパートを後にした。
「………………………ええんですか?」
玄関の外には、嵩原の後輩となった高橋の姿。
「最後まで、やり抜くって決めたんや…………………もう、後戻りは出来ひん」
カンカンと鉄板の音を響かせ、まだ若い二人は寒空の下へ消えて行った。
「……………………っちゃん…………………お父ちゃんっ!」
「大和………………………っ」
遠退く靴音を耳にし、大和は顔を上げる。
本当は、見送りたかった。
母親が生きていた頃、どんなに体調が悪くても、絶対に笑顔で父親を見送っていた。
大好きな母親がいなくなった今、それは自分がしてあげなきゃいけないと、幼いながらに大和は思っていたから。
「きょ……………………どないしよ……………俺、ちゃんとお父ちゃんにバイバイしてへん………………」
みるみる瞳を涙で揺らし、父親の出て行った玄関を見つめる大和。
「お父ちゃん…………………もう、帰って来とうない思うかもしれん……………」
抱きかかえる安道の服を、大人の半分もない手で必死に握りしめ、大和は自分を責める。
父親が悪いんじゃない。
見送らなかった、自分が悪い。
家族が二人しかいなくなった大和にとって、世界は父親が全て。
父親がいなくなってしまったら、全てが終わるくらいに気持ちは追い込まれる。
「アホやなぁ………………そないな事、竜也が思うか。世界で一番、大和が大好きなんや………………サッと用済まして、お前とクリスマスケーキ食べたい思うてるわ」
「ホ………………ホンマに?」
「ホンマや………………♪」
溢れた涙を、ポロポロ流す大和を優しく諭し、安道は微笑む。
「せやから、とびきりのケーキ、買いに行こうや……なぁ?」
「…………………ぅん………………うんっ、行くぅっ!!お父ちゃんの好きな苺いっぱい乗っかってるやつ、買ってあげる!!」
まさに、天使の笑顔。
竜也に見せてやりたかった。
そう想いながら、安道は大和の上着を手に取る。
「っしゃあ………………決まりや!暖かい格好して、出掛けようかぁ♪」
二人が仲良く出掛ける支度をしていると、窓の外は白いものが舞い落ちていた。
どうりで、今日は寒い筈。
ホワイトクリスマス。
古ぼけたおんぼろアパート。
お金も、豪華な料理もない。
でも、雪の冷たさにも負けない温もりが、ここにはあった。
この日、今は亡き木瀬の心配りで、嵩原は早目に帰させてもらった。
組長も同席の中で、それをさせてくれた木瀬の尽力は大きい。
そして、遅くはなったが、嵩原は大和とケーキを食べる事が出来た。
勿論、高橋も誘って。
駆け出しに自由はない。
だが、それを乗り越えたからこそ、今の竜童会は築き上げられた。
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