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包帯ガーゼ、飲み薬と...それに必要な薬品や医療器具を揃えられるだけ、カバンに詰め込んで椎名は時計を確認した
今日は患者が多くて遅くなってしまった...仕事中、真剣に相手と向き合わなければいけない仕事だというのに昨日のことが気になって、とても仕事どころではなかった
僕を頼ってくれた彼とあの傷だらけの少年
あの後、話をしたかったけれど、彼は「また、明日」といって追い出すように部屋を出されてしまった
その日、椎名は家に帰っても眠れるわけもなく、そのまま自分の診療室へ戻った
その目的は過去の「彼」を思い出すために..
きちんと整頓されたカルテの棚を眺めながら、その几帳面さに我ながらいいスタッフをもったなと思う
その中から「彼」を探し出し、当時の記憶がよみがえる
彼がここに初めて連れて来られたときのこと
彼が大事に抱えたあの少年くらいの年だったと思う
目を閉じて思い出すのは彼のまっすぐな瞳だった
おとなしそうな少年で聞かれたことは何でも素直に答えてくれた
「名前...教えてくれる?」
「....ミツル..です」
「緊張しなくてもいいよ?」
そういって僕が笑ったら彼はホッとしたように微笑んだっけ...
そのころ僕はこの仕事に悩んでいて、正直やめてしまおうかと思っていたころだった
人と奥底をのぞいては、隠された内面をえぐり出すようなこの仕事を心底嫌になっていた
親も友達も恋人でさえも、その笑顔の裏には思ってもないような本心が透けて見える
自分から進んでこの道を決めたくせに、一人、また一人、患者が増えていくたびに自分が汚染されていくような気がして..つくづく向いてないのではないかと思っていた
彼を担当することになったとき、この子を最後に仕事を辞めてしまおうかと思った
子供だから気が楽...というのとこんな子供の心一つ救えなければ本当にやめるべきと決められるだろうと思ったからである
最初は医師として...素直に心を開いてくれる彼に僕は安心感をもっていた
その次は友達として...よりもっと深く彼のことを分ってあげたかった
それは、ほかの患者には抱かないような感情
大人よりも純粋でまっすぐな彼に僕はいつしか心が引かれてしまっていた
大概、人間ていうものは他人のことには分るのに、自分のことは見えなくなってしまうものだと思う
それは僕みたいな職業でも....といいたいけれどそれはただ単純に僕が未熟だったことに他ならない
医師から知人..そして友人から親友へ....のめりこむように僕は彼に夢中になった
彼の心が開かれていけばいくほどそれが自信につながって、あれだけ悩んでた患者への接し方も上手くなっていった
すべてがうまくいっていると思っていた
そして僕は間違いを犯す
親友よりその先を望んでしまい、彼は僕の前から姿を消した
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