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「やっと良くなってきたね」
彼と一緒に少年の包帯を外すと、ひどかった傷口が塞がっているのが見える
少年もいつの間にか苦痛に顔をゆがめることもなくなってそこから来たであろう熱もすっかり下がっていた
「傷は...残るだろうね」
太ももの大きな火傷と、腕の十字の傷
これ以上きれいになることはないだろう傷をみて彼は目を細める
少年のケガが治った時、自分は一体どうなるのだろうと椎名は思った
ここに呼ばれたのは、本来は少年の介抱だったはず
それがこうして彼の家から出られない日々...まさに監禁状態だ
すべては自分の油断が巻いた種だけれど、自分が用無しになった時、どうなってしまうのだろう
包帯を留ながら、恐る恐る彼に聞いた
「ねぇ...このまま、僕はどうなるの?手当がいらなくなったら...」
「え..?」
「僕を...殺すの?」
それはずっと疑問に思っていたこと
彼はいらなくなったらきっと容赦はしないだろう
今、自分が無事なのはまだいる意味があるから...
不思議だったのは彼が椎名に危害を加えることがなかったこと
それどころか食事を与え、ある程度の自由もあった
だから錯覚しそうになる
これは夢なんじゃないかって....
今は長い長い夢を見てるんじゃないかって...
けれど、目の前で泣きじゃくる少年と目があうたびに、明日は自分なんじゃないかと震え上がる
彼があの機械からバチバチと電流を見せつけるたびに体がすくんで強張った
自分は無傷なのに...
痛い目に合っているには自分ではないはずなのに日に日に戦意が喪失していく
自由を奪われた人間は、あっという間に壊れていく
そんな人はたくさん見てきたはずなのに....
そんな人が一人でも減るように、自分は医者になったはずなのに...
「先生...そんなこと考えてたの?」
彼はそういいながら笑う
「心配しないでよ。そんなことするわけないじゃん」
彼は少年の柔らかい髪の毛に指をからませながら
「先生はここにいてくれればいい、ユウと遊んでくれればいいんだから」
ここから解放するつもりがないことだけはわかる
「ユウも先生がいたほうがいいよね?」
少年は彼の腕の中から手を伸ばして椎名の服の袖を引っ張り、口元を緩ませた
まるで彼の言葉が理解できたかのようだった
彼は自分のポケットから小さな鍵を取り出してそれを両手の手錠に差し込む
ガチャリとそれが床に落ちると、腕が急に軽くなった
「い...いいの?」
「うん。先生のこと信じてるから」
手錠が擦れた後をさすりながら、椎名は彼を見つめる
椎名の目は、怯えるようなほっとしたようないろいろな思いが混ざった色
彼はそれを見て、思う
なんだっけ。この色、、、昔、、、見た色
自分に対して向けられた、怯えと安堵の混色
昔の記憶が少しだけ脳裏を掠めた
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