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鍵がかかった寝室の前で椎名は座りこんでいた
何かが倒れるような音、苦しそうにうめき声と ぼそぼそと話す冷酷な声
はっきり聞き取ることはできないけれど、それらが何を意味するのかなんて嫌でも分ってしまう
閉ざされた扉の向こうは今、あの白い部屋と同じだ
今すぐ叩いてやめさせることもできたかもしれない
けれど、それをしたら少年に対しての後が怖い
少年との距離を急ぎすぎたか...椎名は自問自答する
けれど急がなくてはと焦っている自分がいる
小さな少年の体は、一体どこまでこの生活に耐えていけるのだろう
こうなってしまっては時間などかけてはいられない
早くここから連れて行かなくては....
椎名はそのことにとらわれて自分を見失いかけていることに気づいていなかった
もはやそこには、精神科医としての彼はいない
捕らわれて少年と過ごした数日が彼から冷静さを失わせていく
それぐらいあの少年には心が動かされる何かがあった
健気に彼のそばを離れない少年の姿は一度見たときから椎名の心に焼き付いて離れない
戸惑いながら椎名との距離を近づける姿を見たとき”助けたい”と心底思った
ガチャリと寝室の扉がやっと開いた時、椎名はそれを見て、驚愕した
彼の腕の中で気を失っている少年
腕が伸び、肌が青ざめて真っ白くなっていた
「な...にをしたの?」
椎名の問いには答えず、広々したリビングの床に少年を寝かせて彼は自分の救急箱を取に行く
「僕がやる」
すかさず彼は部屋の隅に置かれた自分のカバンをとりに行った
少年のケガは見た感じは擦り傷程度だったけれど、それで気を失うなんてありえない
彼は一体何をしたというんだ
「何をしたんだよ」
すると彼は悪びれることなく言い放った
「話聞かないから、蹴り上げただけ」
一枚だけ着せられて少年の服をめくると、彼の言葉が証明されるようにお腹のあたりが青紫に変色して見えた
「ひどい....なんでこんなことができるだよ...」
小さな体ですべて受け止めて耐えているのを想像するだけで胸が苦しい
「先生が来てからさ、なんかユウ、分んなくなってきちゃってるんだよね」
「え?」
「俺が教えたことが変わると混乱しちゃうみたいなんだよね」
彼は横たわる少年の頬を撫でてから椎名に向かってニコリと笑いかけてから口元を締めていった
「あんまり、余計なことすると殺すよ?」
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