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ギュッとして体の奥に力を込めて、これから来るであろうことに備えれば強い痛みにはだいたい耐えることができる
それは彼と過ごしてきて、少年が自ら覚えたことだった
怒られて殴られるのはいつものこと
いうことを聞かなかったり、言われてることが分からなかったり、できたはずのことができなくなったり
他にも理由はあるのかもしれないけれど....少年はそれを疑問に思ったことなど一度もなかった
ここには彼と少年の二人だけ...殴られるのは少年だけ
それが当たり前、それが二人の日常だから
だからたった今、振り下ろされて皿が自分の頭に落ちてくるのをじっと待っていた
ギュッとしているうちは、痛くない
.....それなのにいくら待っても頭に衝撃は落ちてこない
不安に思って少年はゆっくり片目だけそっと開けてみた
そのままゆっくり瞳を動かして周りを見渡してみる
もしかすると...もしかするとだけど、彼はそれが分ってて目を開けた時、少年の力がふっと抜けた時を待って殴るのかもしれないから
現にそれはやられたことがあった
ギュッと目をつぶって身構えてもなかなか殴られなくて、
そしたら彼が「ユウ」って呼んでくれてそれがすごく優しい声だったから目を開けたら拳で力いっぱい殴られた
その時は部屋の半分ぐらいまで吹っ飛んで、痛くて痛くて起き上がれなかった
ふいに来る痛みにはまだ慣れない
だからまたそれなんじゃないかって思って....思ってしまって目が開けられなかった
それでもゆっくり片目だけ開けて見てみたら、床にはちゃんと皿が落ちていた
不思議に思って今度は両目を開けて見てみると、やっぱり、床に皿が落ちていて、その周りに自分が食べていたごはんが散乱していた
不思議に思った少年がふと足元に目をやるとポタリ...ポタリと血の雫が見える
1つ落ちてはまた1つと、点々の数が増えていく
”あれ....痛くない...”
少年はそう思って顔を上にあげると、そこには額から血を流して少年をかばうように彼の間に立つ椎名の姿があった
「痛.....」
椎名は弱々しく呟いてから額に手を添えた
少年はただそれを呆然と見ていた
椎名は彼が皿を振り下ろす瞬間、思わず少年の前に飛び出し、覆いかぶさるようにかばっていた
振り下ろされた皿の縁が額をかすり、薄い皮膚は簡単に切れて、そこから血が流れ、雫が頬を伝って床に落ちる
固まったままつったている少年に向かって椎名は声をかけ、こわばった頬に触れた
「ユウくん、、、大丈夫?痛いとこ..ない?」
頬に触れた指先が赤くなっている
自分以外の誰かが血を流すのをはじめて見た少年はその場から動くことができなかった
なぜ、殴られたのは自分ではないんだろう
なぜ、この人は額から血が流れているんだろう
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