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ひとしきり泣いた後の少年は自ら椎名の背中に腕を回していた
必死に掴んで...まるで何かからもがいて救いを求めるように
身体が熱くなっている
こめかみには髪の毛も張り付いている
伝えられなくて心の奥に沈み込んだ思いを吐き出すようにひたすら泣き続けた少年の目も今はもう渇いていた
けれど少年は椎名から離れるのを拒み、その鼻先をこすりつけるようにしている
泣いた理由も今考えていることも、理解してあげられないけれど気がすむまで泣かせてあげたかった
彼の前ではきっと、痛みや恐怖に泣くことがあっても、こんな風に気持ちの赴くままに泣くことなどできなかったであろう
1人でずっと、耐えてきたんだ
小さな体で全てを受け止めて、それでも少年には彼しかいない
彼だけが全て
腰に巻きついたままの少年の頭を撫でながら、椎名はふと窓に目線を移した
あれほど降っていた雨はいつの間にか上がっていた
窓に残った雫が差し込んだ光を集め、キラキラと揺れる
「、、、、!!」
窓の外にあるものを見つけ椎名は思わず少年の腕を掴んだ
「ユウくん!見て!!」
そのまま少年を勢いよく抱き上げて、窓を指差した
少年は突然のことに驚き、浮いた体が落ちないように椎名の首にしがみ付いた
「見てごらん?ほら!!」
椎名の指差す方向に見えたのは
綺麗な七色に輝くアーチ
小さな四角い窓の向こうにキラキラと虹がかかっていた
「すごい、、、キレイだねぇ?!」
椎名自身、雨上がりの虹など何年ぶりだろう
こんな部屋でこんな景色が見えるなんて...
思わず息をのむほどの景色に椎名のほうが興奮していた
少年は椎名の腕の中から、小さな手を恐る恐る窓に伸ばす
短い指がそっと窓ガラスに触れた
その指はアーチをなぞるように流れ、それを見つめる目は驚いたように見開いていた
「綺麗だねぇ、ユウくん!」
良く見えるように抱き直し、窓に少年を近づける
「、、、き、、れ?」
突然、少年の唇が震えるように動いた
「わかるの?綺麗って、、、きれいっていったの?」
「う、、ん?」
首をかしげる少年
自分が今、言葉を発した事に気付いていないみたいだった
「綺麗って。もう一度言ってみて?きれいって。」
「き、、れ、、、、ぁ?」
まるで椎名の真似をするように口を動かして、途切れ途切れ、言葉を紡いでいく
「うん。そう。きれい、わかる?」
たどたどしく"きれい"と3文字つぶやきながら少年の目線は窓からぼんやりと外れていく
「ユウくん?綺麗っていうのはね、、、」
腕からずり下りかけた少年をもう一回抱き直し、窓を人差し指でトンと叩いて注意を向ける
「こういうものを、"きれい"っていうんだよ?」
少年の瞳にもう一度、虹が映る
”きれい”はキラキラした景色
初めて見るそれを少年は食い入るように見つめて呟いた
「きれ、、、ん、、きれい」
3文字をはっきりと発した時その顔は穏やかに笑っていた
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