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「先生は優しいからユウはきっと俺なんかより先生を好きになる」
彼ははっきりとそう言ってそれが1番怖いと言った
「そんな事あるわけないじゃない」
椎名はあまりにも予想外のことを言われて驚いてしまった
なにがどうなるとそう思うのか...
「なんでそう思うの?」
「だって...名前呼んだ。先生の...俺のことだってわかんないのに」
彼はまるで子供のようにふてくされて口を尖らせる
俺の名前も呼んだことないくせに「先生」と呼んだ
...だけど、必死で覚えようとしたユウを止めたのは誰だっけ
覚えなくていい
名前なんて呼ばなくていい
ユウは何も覚えないで俺の手の中で全部俺に預けていればいいんだと望んだのは誰だっけ
先生が来てからユウはいつも楽しそうだった
先生は俺と違って傷つけたりなんかしない、俺がいない時間に付きっきりで遊んでくれる人を好きにならないはずがない
ユウが先生を選んで俺を捨てるのが1番怖い事だ
椎名はそんな彼を見て思わず吹き出して顔を緩ませる
「ふふふ、そんなことはないと思うけどな」
あまりにもあっさりと否定する椎名に彼は食って掛かるように言った
「なんでそんなこと分かるの?!」
椎名は必死に訴える彼の顔を見ながら目を細めていく
穏やかに笑いながらなぜそう思うのかを話して聞かせた
「いつもユウくんってね...」
彼が出かけてからしばらくその場を動かないこと
すごく寂しそうに扉を見つめていること
ほんの少しの物音でも玄関に駆け出して彼の帰りを待ちわびていること
彼の名前を呼びたくて...でもうまく話せなくて泣いてしまうこと
「ユウくんはいつも君の事ばかり考えているよ?」
「そんなこと...」
「あるよ!分からない?あの子が一日で一番笑顔になるのは君が帰ってきた時なんだから」
椎名にそう言われた彼は思わず呆けたようになってしまう
ほかでもない椎名にそんな風に言ってもらえるなんて思わなかった
取られてしまう...取らないでほしいと思っていた
そうなってしまえば自分に勝ち目はないと思っていた相手だったから
「君はもう少しあの子のことを信じてあげないといけないね」
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